今年度は、公開買付届出書のテキストデータを解析することで、株式非公開の動機、少数株主の富への影響ついて検証した。分析の結果、MBO案件と支配株主による完全子会社化案件とも、非公開化を通じ、上場維持コストの削減をしようとしていることがわかった。そのうえで、MBO案件では、抜本的なリストラクチャリングを実施することを志向しているのに対し、完全子会社化案件では、親会社やグループ企業との連携を深め、グループ全体の企業価値向上を目指していることが明らかとなった。また、バイアウト・ファンド関与案件では、「コスト」や「抜本」という単語の記載を避ける傾向にあった。さらに、買収プレミアムの検証では、「コスト」のみがその水準を引き上げていることが示された。 また、上記に加え、再上場を果たしたMBO案件の、再上場の動機とその成果についての検証も行った。その分析結果を要約すると、第1に、再上場企業の非公開化前のPBRとフリーキャッシュフロー比率は相対的に低く、アンダーバリュエーションの程度が大きかった。第2に、それら案件の所有構造に目を向けると、非公開前の役員持株比率も低かった。第3に、非公開化前から再上場後のパフォーマンスに関しては、ROAは上昇しておらず、総合的な経営効率の改善は観察されなかった。それに対し、ROEは上昇傾向にあったが、それは主にレバレッジの利用に起因しており、総じて収益性、効率性改善の寄与は乏しかった。第4に、PBR、EBITDAマルチプル、名目リターン、IRRで求めた株主価値は、非公開化前から再上場時において向上していた。 このほか、MBO案件における特別委員会の機能についての検証、MBOの動機や一般投資家の富に与える影響に関するサーベイ、MBOと経営者属性の関係性についての分析を行った。
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