研究課題/領域番号 |
21K01723
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
国府 俊一郎 大東文化大学, 経営学部, 教授 (90759721)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 台湾 / 現地人材の活用 / 労務管理 / 人的資源管理 / サービス業 |
研究実績の概要 |
本研究は、台湾のサービス分野に進出する日系企業と現地企業における人材定着のための施策を比較し、現地において人手不足に悩む日系企業に対して適切なソリューションを提起することを目標としている。初年度については、「1、先行研究の収集 2、現地調査企業との調整 3、台湾現地企業の人事制度に関する調査と論文執筆」を具体的目標として定め研究活動に取り組んだ。その成果としては、2021年6月27日に、「人事労務研究の国際比較」というテーマで開催された第30・31回労務理論学会全国大会の統一論題での報告が挙げられる。残念ながら新型コロナウイルス蔓延の影響によって、オンライン開催となってしまったが、会議では活発な議論がなされ、フランス・日本といった諸国の人事制度との比較が行われ、台湾の雇用制度についても多面的な理解が促進された。 この発表の結果をまとめたものが、國府俊一郎「和洋織り交ぜた台湾的雇用慣行の探索」(『人事労務研究の国際比較―その動向と展望(労務理論学会誌第30号・31号合併号)』晃陽書房出版、2022年3月、pp.31-48)であり、2022年の3月に公刊された。この論文は、台湾の人事労務管理について、日本とアメリカの雇用管理を基礎としながら台湾独特の組織文化の影響を色濃く残した、「台湾的雇用慣行」の存在を明らかにすることを試みた。また、当該論文では、台湾の現地企業(ホテル)への聞き取りによって明らかになった「幹部候補生」育成制度や職務管理における、さまざまな「基準」や「資格」、「試験」の存在が使用者と労働者の間の信頼を形成する担保になっていることを示唆した。 台湾の労働市場において、単純なジョブ型雇用制度が導入されていると広く信じられ、ジョブホッピングによる離職も所与の条件とされてきた。しかし、近年では幹部候補の育成制度を整え、長期の育成を可能とする制度を整えようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、「1、先行研究の収集 2、現地調査企業との調整 3、台湾現地企業の人事制度に関する調査と論文執筆」を目標とした。1の先行研究の収集については、これまで外食産業に偏っていた先行研究をサービス業全般に広げるため、今年度はまずホテル業界に広げる試みをおこなった。台湾における現地の先行研究については、現地訪問が新型コロナウイルス蔓延による入国規制によって、新規の入手が困難であったが、国内の研究をもとに理論的な背景を固めることができた。また、サービス業の一つとして物流業に関する先行研究と統計資料を収集した。物流業について、先行研究をまとめ、かつ、最新の統計データをもとにした分析論文である、國府俊一郎「道路貨物運輸業に雇用の現状分析―コロナ禍における労働市場の変化の中で」(『大東文化大学紀要<社会科学>第60号』、2022年3月、大東文化大学出版、pp.1-17)にまとめた。今後台湾のサービス業における労働市場を分析するにあたり、一つの比較基準とすることができる。 2の現地調査対象企業との調整が最も遅れている。新型コロナウイルス蔓延によって、台湾との往来は遮断されて丸2年となり、現地大学教授との人脈が希薄になりつつある。また、現地においても新型コロナウイルス蔓延対策による業務の煩雑化が顕著であり、レスポンスに非常に時間がかかる状況であった。遠隔によるインタビューも考えたが、日本語が通じる相手であっても企業の実態を探り当てるインタビューは遠隔では困難であるから、現地の中国語や英語によるインタビューは実り薄いことが容易に予測されたために、国内においてできることに集中したという事情がある。令和4年度には台湾に渡航し、いくつかの現地の企業と共同で研究を行う予定である。 3の論文執筆について、若干の方向性の変更があったものの、研究業績に詳述したように一定の成果を出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画によれば、令和4年度は現地企業の調査、現地における先行研究の収集、企業ヒアリングに注力し、アジア経営学会の全国大会における発表と研究ノートの執筆を予定していた。しかしながら、令和3年度に全く台湾に渡航することができなかったために、令和4年度に現地企業における調査が可能かどうかは若干の不安がある。また、新型コロナウイルスの蔓延が再び激化した場合、令和4年度もまた渡航ができなくなるという可能性も考えられなくはない。したがって、オンラインによる企業調査とデータ分析で代替する準備も整えている。しかしながら、企業の実態を探るためのインタビューはオンラインでは困難であることから、研究執行期間の一年延長も視野に入れておかなければならないと考える。また、台湾に進出する日系企業については、日本本社を通じたインタビューを行っていく予定である。ただし、日本本社と台湾現地では課題に関する温度差や状況把握の程度の違いがあることから、これもまた、不十分な結果となることが考えられるため、本研究の完遂のためには、やはり、台湾現地への渡航が不可欠であると言わざるを得ない。 本報告書執筆時(2022年4月)の新型コロナウイルスの蔓延状況は落ち着きある状況であり、研究発表の目標としているアジア経営学会は現在のところ対面での開催が予定されており、活発な意見交流が期待される。令和4年度の前半では、台湾におけるホテル業界や物流業界におけるデータを収集する。また、近年、企業における人権デューデリジェンスが注目を集めている。人権デューデリジェンスはいわゆるESG経営のS(社会)と関連しており、従業員の人権保護がその一つの要素となっている。台湾企業による従業員の人権や法令遵守の事例に関しても理解を深め、本研究に最新の流れを呼び込むことを企図している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来の研究計画では、台湾へ渡航しての、現地大学教員との研究打ち合わせや先行研究の収集、研究対象企業との打ち合わせが予定されていた。しかしながら、新型コロナウイルス蔓延に伴う渡航禁止によって、やむを得ず延期せざるを得ない状況となった。また、国内においても全ての全国学術大会がオンラインとなってしまった。次年度使用額が生じているのは、以上の理由からである。 令和4年度における使用計画としては、国内における学術大会への参加や台湾への渡航を予定している。新型コロナウイルス蔓延状況次第ではあるが、さらに繰り越すことになってしまう可能性もあって、研究期間の最終的な延長もやむを得ないかと考えている。
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