研究課題/領域番号 |
21K01726
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
安藤 直紀 法政大学, 経営学部, 教授 (50448817)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国際経営 / 多国籍企業 / 地理的多角化 / 海外子会社 / 協業 / 制度理論 |
研究実績の概要 |
多国籍企業の海外子会社は、単独で活動しているのではなく、他の子会社と協業を行っている場合が多い。多くの場合、海外子会社同士の協業は、地域内ネットワークの中で行われ、多国籍企業はこれにより地域戦略を遂行している。地域内で子会社間の協業がどのように行われ、地域戦略が遂行されているのかを研究するのが本課題の目的である。一方で、経済統合や地理的近接性によって地域レベルの制度が創出され、地域内の多国籍企業の活動に影響を与えている。他方で、国レベルの制度も存在する。本研究課題は、国および地域レベルの制度を考慮し、多国籍企業の地域レベルの行動を理解していく。 まず、多国籍企業の地域内地理的多角化に関する論文をレビューし、先行研究で分かっていることや、残されている課題を把握した。さらに、地域レベルの制度や、多国籍企業の地域レベルのパフォーマンス、地域内多角化が、先行研究でどのように操作化されているのかをレビューした。 次に、日本企業の海外子会社に関するパネルデータセットを用いて、地域レベルの変数を作成した。その際に重要なのは、地域をどのように定義するかであるが、ヨーロッパ、アジア太平洋、南北アメリカという3地域に分割した。この3地域について、多国籍企業ごとに、地域内多角化等の変数を数値化した。地域レベルのパフォーマンスについては、先行研究でもあまり用いられていないので、利用できるデータを使い、数通りの変数を作成した。地域レベルの制度については、公式的および非公式的(社会文化)制度の地域内のばらつきをもとにした変数を数通り作成した。これらを用い、地域内多角化や地域レベルのパフォーマンスに影響を与える要因を探すための予備的な分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、量的研究と質的研究の両面からアプローチする計画である。質的研究に関しては、主に日本企業の海外子会社へのインタビュー調査を計画していた。しかし、COVID-19により、国際間の移動が制限された。そのため、主要な調査対象である日本企業の海外子会社へのアクセスが困難となった。効果的なデータ収集のために、海外子会社を訪問してインタビュー調査を行おうと思っていたが、21年度は実施できずに終わった。国の制度と地域の制度の、多国籍企業の地域レベルの活動への影響に関する研究フレームワークを精緻化していくためには、インタビュー調査を計画に近いかたちで進める必要がある。しかし、上述のような理由で、質的研究からのアプローチは、計画よりも遅れることになった。 一方で、量的研究に関しては、計画に近い形で進行した。すでに作成してある日本企業の海外直接投資に関するパネルデータを用い、今後の分析に必要な変数を操作化していった。多国籍企業の地域レベルのパフォーマンスや、地域内地理的多角化など、どのように操作化するかが合意されていない概念に関して、複数通りの操作化を行った。また、予備的な分析も行った。当初計画に近い形で進捗しているので、量的分析に関してはおおむね順調だと評価できる。 量的研究および質的研究の進捗度合いを勘案し、やや遅れていると総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
量的研究については、日本企業の海外子会社のパネルデータセットを用い、地域レベルの変数の操作化を精緻化していく。地域レベルの制度や、多国籍企業の地域レベルのパフォーマンス、地域内多角化等、すでに複数通り作成したが、他の操作化方法を引き続き考えていく。また、地域レベルのパフォーマンスや、地域内地理的多角化に影響を及ぼすと予想される変数を、先行研究やインタビュー調査から導出し、統計分析に使える形に操作化していく。操作化のみにとどまらず、今後、早い段階で、予備的な分析から本格的な分析に移行していく計画である。さらに、3つの地域をベースに地域レベルの変数を作成したが、これとは異なった形での地域分割も行う予定である。 質的研究に関しては、当初計画よりも進捗が遅れているが、現在の状況で可能な方法を探っていく。当初の計画では、東南アジアやヨーロッパでフィールドワークを行う予定だったが、COVID-19の状況を考えると、早い段階で海外でのフィールドワークが実施できるか不透明である。対面式でのインタビュー調査からは得られる情報量が多く、情報の質も高いので、移動の制限が緩和され、安全が確認されしだいフィールドワークを開始する予定である。しかし、状況が不透明な場合は、代替手段を考える。代替的な手段としては、ビデオ会議用ソフトウエアなどを活用したインタビュー調査や、本社の海外担当部門へのインタビュー調査などが考えられる。あるいは、海外赴任から帰国したマネージャーもインタビュー対象になると思われる。 量的研究から一定の成果が得られしだい、学会発表のための論文を作成する計画である。また、質的研究からの成果は、研究フレームワークの構築・精緻化に活用していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヨーロッパや東南アジアの複数国に出張し、日本企業の海外子会社を主要な対象としてインタビュー調査を行う計画を立てていた。しかし、COVID-19の影響により、海外でのフィールドワークが困難な状況だった。このような状況を考慮し、フィールドワークを次年度以降に延ばし、2021年度は量的研究を中心に行った。計画していた海外でのフィールドワークが行えなかったことで、海外出張旅費の支出がなかった。これが、使用残額が生じた主要な理由である。今後、海外への移動制限が緩和されしだい、海外でのフィールドワークを開始する予定である。残額は、主に海外でのフィールドワークのための出張旅費として使用する予定である。さらに、量的研究からの成果を、2022年度中に海外学会で発表しようと思っているが、このための出張旅費にも使用する計画である。
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