研究課題/領域番号 |
21K01732
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
弘中 史子 中京大学, 総合政策学部, 教授 (10293812)
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研究分担者 |
寺澤 朝子 中部大学, 経営情報学部, 教授 (40273247)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中小企業 / 製造業 / IoT |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の中小製造業がIoT活用を進展させるための方策を明らかにすることである。日本政府をはじめ世界各国が製造業のデジタル化を競って進めているが,日本が国際競争力を持つ自動車・情報家電・航空機部品等の産業では,サプライヤーである中小製造業のデジタル化が遅れており,大きな課題となっている。そこで本研究では,デジタル化の中でも中小企業が着手しやすいと考えられるIoTに絞り,導入優先度の高い生産業務に焦点をあてて検討することとした。 企業,とりわけ製造業のIoT活用については,ヨーロッパをはじめ,海外を中心に研究が進んでいるが,IoTに関連する概念は多数存在する。そこで2021年度はIndusty4.0という観点から,既存研究を整理するとともに,研究動向を次の3点から明らかにした。 第一に,Industry4.0の進展度の評価指標である「Industry4.0の構成技術」「Industry4.0を実施する企業の管理能能力」を整理して示した。第二に,生産業務と関連するIndustry4.0の議論は,リーン生産方式を引き合いに出していることを指摘した。たとえばリーン生産の要素・概念とIndustry4.0の具体的な技術との関係を議論し,事例調査やアンケート調査を通じて実証的に明らかにしようとしているものが多い。第三に,中小製造業のIndustry4.0に関する研究は限られているが,経営者が「最先端技術への導入に積極的な態度」を持ち,「先端技術を扱える人材を採用もしくは育成」し,「導入の費用を抑える」ことができれば,かなり良い成果を得られる可能性が高い。 上記のレビューをもとに,日本の中小製造業がIoTを進展させる上で着目すべき点を論稿でまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,成功企業におけるIoTスキルと組織的施策に関する質的分析を行うために,中小企業やその社員へのインタビューを実施することを予定していた。しかしながら,新型コロナウィルス感染拡大による行動制限により,中小企業の生産現場の訪問に大きな制約が出たため,インタビュー調査についてはほとんど実現できなかった。 そこで,まずIoTに関連する既存研究についてレビューし,今後の研究の理論的焦点を明らかにすることとした。IoTの技術は工夫すれば,スマートフォンや数千円のセンサーなどを組み合わせることで費用が抑制できるため,中小企業でも導入しやすい。既存研究からも,条件を整備することで中小企業においてもかなり良い成果を得られる可能性が高いことも明らかになっている。 他方,日本の製造業においてIoTがなかなか進展しない背景には,IoTという概念に対するイメージや先入観も影響している可能性があるため,新聞記事においてIoTという語が使用される背景・コンテクストを確認する必要がでてきた。そのため,テキストマイニングによる分析にも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の論点として,現時点では次の二点に着目している。第一は,リーン生産とIndustry4.0,中でもIoTに関する日本発の研究である。リーン生産はトヨタ生産システムをはじめ,日本の自動車産業での経験を体系化したものである。そのため,日本の自動車産業を対象に,IoTに関する実証研究を積み重ねることも,学術的または実践的な貢献になると考えられる。そのため,自動車関連の中小企業を調査対象として組み入れたい。 第二に,IoT活用に関連したリーン生産に着目した場合のヒト・組織の役割についてさらに分析を深めたい。既存研究では中小企業がIoTを導入できない理由としてIoTスキルを持つ人材の不足が指摘されている。しかし,中小企業ではリーン生産で目指す生産性向上,品質向上,原価低減の実現に不可欠なカイゼン能力がそもそも不足しており,それがIoTの進展を阻んでいる可能性がある。カイゼンする能力が不足していれば,「IoTを活用してどのようなデータを得たいのか」「IoTで取得したデータをどのように分析してよいか」が不明瞭になる。それゆえに,中小企業でIoTの活用が進まないと仮定するならば,技術的な問題だけでなく,導入する際のヒト・組織の抱える課題もあわせて検討する必要があろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,IoTスキルと組織的施策に関する質的分析を行うために,中小企業を訪問調査して現場を視察し,社員へのインタビューを実施することを予定していた。しかしながら,新型コロナウィルス感染拡大による行動制限により,訪問に大きな制約が出て,インタビュー調査がほとんど実現できなかったために,次年度使用額が生じた。
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