研究課題/領域番号 |
21K01739
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井原 基 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (00334144)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マーケティング・チャネル / オンラインチャネル / 中国 / タイ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、流通の分断・分散という状況が残り、近代化の途上にあるアジアの流通環境において、企業はどのようなチャネルを選択してきたのか、選択すべきなのかを探ることにある。研究年度の3年目にあたる本年度は、コロナウィルスの収束状況を見極めつつ、様々な調査に着手する予定であった。結果としては、進捗状況の欄で述べる複数の事情のため、海外現地調査は実現しなかったが、以下の研究上の顕著な進展があった。(1)研究協力者との共同研究により、中国における化粧品のオンラインチャネルの調査を進めることができた。具体的には、資生堂中国現地法人のマーケティング担当者と在日中国人インフルエンサー(KOL)へのオンラインインタビューを実施し、KOLの役割に注目したテーマで国際学会での研究報告を実施した。(2)オンラインベースで多様なデータを収集した。特にEuromonitor社のデータベースにより、オンライン・オフラインのアジア各国の小売業の伸長状況や、アジア各国における主要化粧品・日用品(トイレタリー製品)のブランド・企業別シェアの変化を調査し、コロナ期に中国だけでなく東南アジアにおいてもオンラインチャネルの顕著な進展が見られたこと、現地系ブランドの伸長が著しいこと等を発見した。(3)先行研究の検討と理論フレームの構築を進めた。従来の申請者の研究はオフラインチャネルを対象としていたが、オンラインについての研究は未着手であり、「チャネルの統合と範囲の拡大のトレードオフとその解決」というオフラインのフレームをどこまで拡大できるのかが課題であった。しかし先行研究の検討とインタビュー調査の統合により、オンラインチャネルにおいても現地のアクターとのネットワーク構築による埋め込み(embeddedness)が有効なため、統合戦略とカバリッジの拡大のトレードオフという従来の枠組みが有効であるとの見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウィルス感染症の未収束に加え、申請者が所属機関の経済学部長に選出されるという想定外の事態が発生したため、2022年度の研究環境は大きく制約されることになった。研究面での負の影響は海外現地調査を実施できなかったという点において大きかったものの、いくつかの顕著な研究の進展も見られた。特に日系化粧品メーカーの中国現地法人やインフルエンサー(KOL)へのインタビューによって、オンラインチャネルにおいて鍵を握るチャネルパートナーの実態解明が進み、さらにオフライン、オンラインを一気通貫する分析フレームワークの整備や、アジア各国の市場データの蓄積を進めることもできた。これらの進展は、全般として従来申請者の研究において手薄であった、オンラインチャネルを対象として理論的枠組みの整備やデータの収集につながったということができる。これらの進展内容は、将来の新興国チャネル戦略の研究を大きく推進するための貴重な手掛かりとなると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度中に進展したオンラインチャネルについての調査研究を継続的に発展させる。合わせて中国と東南アジア(タイ・ベトナム)の従来のオフラインチャネルについての研究を進める。現時点では、当初の研究計画について以下の修正が生じる見通しである。(1)オンラインチャネルの研究については、特に中国の化粧品・インフルエンサーチャネルの調査研究が進んだため、当初の予定よりも進展する予定である。(2)オフラインチャネルの研究については、研究計画の当初に組み込んでいたインドまでは手を広げられない可能性が高くなったので、調査地域を中国と東南アジアに絞った上で、その部分については予定通り遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に現地調査を十分に行うことができなかったため、次年度使用額として122,865円が生じた。次年度使用額と次年度の正規の交付額を合わせて、企業へのインタビュー調査や文献調査、英文査読誌の校正費用などに使用する。
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