本研究「マーケティング・マネジメント理論の学説史的構築」の主要な研究成果は以下の二点に集約される。 第一に,マーケティング・マネジメント理論における主要な戦略的諸変数によって構成される「マーケティング・ミックス」のうちの一つであるプライシング戦略に関連して,キャプティブ・プライシング戦略の理論的精緻化を行ったことである。これは「ジレット・モデル(剃刀本体と剃刀の刃のセット販売において,エントリー価格を抑え,その後買い替えが必要で自社の技術が集約された剃刀の販売において高利益を確保するというジレット社の価格戦略)」として知られてきたが,これを「セット販売される財同士の交差価格弾力性」に加えて「消費者が購入したいと望む製品を入手するために他の製品の購入が条件となる程度」を表す「キャプティブ度」という概念を新たに開発・導入することによって、異なる性質を持つ9つのキャプティブ・プライシングを識別・分類することに成功した。これらの研究成果は2024年度のマーケティング学会において発表予定である。 第二に,プロモーション理論の原初的理論であると同時に,今なお様々な応用がなされているAIDAモデル(広告効果モデル)において,その学説史的基盤を明らかにしたことである。具体的には,これまで世界中の研究者の中で「定説」とされてきた「Elmo Lewis起源論」を資料的積み上げによって棄却し,新たに同時代にセールス・パーソンの教育機関として設立された「Sheldon School」の教育コンテンツとして開発・普及されたことが明らかにされた。これら学説史的事実は,マーケティング史に関する中心的学会であるCHARM(Conference on Historical Analysis and Research in Marketing)でも発表され,大きな反響を得た。
|