研究課題/領域番号 |
21K01783
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
與三野 禎倫 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80346410)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 統合報告 / 統合報告書 / 非財務情報 / サステイナビリティ / ESG / 持続的成長 / 無意識,無記憶の潜在的な認知 / 実験研究 |
研究実績の概要 |
本研究は,わが国が積極的に推進する企業の持続的成長および環境,社会,およびガバナンスに関する取り組みの促進に関する投資環境の整備に向けた科学的証拠を提示することを目的とする。ここでは,とくに持続的成長とESGに関する情報をどのように開示することが企業と投資者のエンゲージメントを促進するかという観点から,これらの情報に関する企業と投資者の双方の側の認知と理解を科学的に計測する。 本研究のステップはつぎである。第一に,先行研究や研究代表者の業績によって被験者に提示する持続的成長とESGに関する情報項目と内容を選択する。第二に,企業と投資者はどのような項目がどのようなプロセスを経過して意思決定に役立つと判断しているかについて分析する。第三に,企業と投資者の双方の意思決定と相違を浮き彫りにすることによって,わが国の持続的成長とESG要素の情報開示に関する科学的証拠を提示して政策提言に結び付ける。 令和3年度は,先行研究を渉猟することによって,被験者に提示する持続的成長とESGに関する情報項目と内容のデータベースを構築した。令和4年度は,第2のステップとして,被験者に提示する持続的成長とESGに関する情報項目と内容のデータベースを基礎として,企業と金融機関からの参加者を対象としたインタビュー,アンケート,およびコンピュータによる情報配信による計測調査をおこなった。そして被験者に企業の財務情報とサステイナビリティを含んだ非財務情報を呈示して当該企業の評価(投資の観点からの評価と健全性の観点からの評価)を実施してもらった結果をうけて,開示の内容と伝達手段の有効性,および企業と金融機関の双方の側の認知プロセスの相違の検証をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ここ10年で急速に技術革新が起こっている Web に表示された情報の閲覧状況の収集および分析の技術と,アンケートやインタビューとを組み合わせることによって,前者で取得することができる無意識,無記憶,および本音を表すデータと,後者で取得することができる印象,記憶,理解といったデータを相互に照らし合わせることに特徴がある。無意識,無記憶の潜在的な認知に踏み込んで企業と投資者の双方の側の認知プロセスに関する実験的・実証的研究を実施することによって,開示の内容と伝達手段の有効性,および企業と投資者という立場の違いによる情報理解の相違の検証をおこなうことが可能となる。 令和4年度は,被験者に提示する持続的成長とESGに関する情報項目と内容のデータベースを基礎として,第2のステップであるインタビュー,アンケート,およびコンピュータによる情報配信による計測調査を組み合わせて実施したうえで,開示の内容と伝達手段の有効性,および企業と金融機関の双方の側の認知プロセスの相違の検証に取り組むことができた。 したがって,本研究課題の進捗は順調であると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,企業の持続的成長とESGに関する(1)開示の内容と伝達手段の有効性と,(2) 投資者と企業,政策立案者の認知と理解の相違という2つの研究課題を網羅的に実践することによって, ステイナビリティ投資を目指した投資環境の整備に,企業開示という観点から積極的に提言を行いたい。 第一の企業と投資者の双方の認知と理解に関する科学的な計測による検証については,現在,アンケートやインタビューとWeb に表示される情報の閲覧状況の収集と分析によっておこなっている。意思決定に重視される情報は,ひろく公衆に伝達されるメディアによって開示することが社会的厚生を引き上げると期待されるであろう。それ以外のはばひろい情報は統合報告やアニュアルレポートといった主要なメディアとは別の形態での開示で良いかもしれない。第二の投資者と企業の持続的成長とESGに関する認知と理解が,政策立案者とどれだけギャップがあるかについては,投資者と企業の持続的成長とESGに関する項目と内容に関する認知と理解を政策立案者のスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの趣旨と照らし合わせる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3-4年度に予定していたインタビューやアンケートに向けられる旅費や人件費・謝金の一部は,つぎの理由により次年度使用とした。すわなち現在,アンケートやインタビューとWeb に表示される情報の閲覧状況の収集と分析をおこなっているが,フォローアップのインタビューやアンケートの必要性が予想される。したがって次年度使用額は,令和5年度のフォローアップのインタビューやアンケートの実施にあてる。
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