研究課題/領域番号 |
21K01793
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10350414)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 戦略タイプ / ラチェッティング / 予算(業績目標) / 経営者予想利益 / 受身型 / 防衛型 / 探索型 / 分析型 |
研究実績の概要 |
2022年度は、Miles and Snow(1978)が唱えた「防衛型」、「探索型」、「分析型」という3つの戦略タイプの選択が、それぞれ予算の「ラチェッティング」にどのような影響を与えるのかについて、企業が公表する決算短信における予想利益(以下では「経営者予想利益」とする)を予算の代理変数として用いて検証を行った。 検証に際しては、先行研究から、防衛型戦略を選択した企業は探索型戦略を選択した企業よりもラチェッティングの程度が大きくなるもしくは小さくなるという2つの仮説を設定した。分析型戦略を選択した企業については、先行研究では予算のラチェッティングとの関係についての推測が難しいことから、仮説を設定せずに探索的な検証を行うこととした。分析に際しては、まず公開財務データを用いて、Bentley et al.(2013)に基づく6つの変数を推定して、分析対象の企業を防衛型戦略を選択した企業、探索型戦略を選択した企業、分析型戦略を選択した企業に分類した。分類を行った後に、それぞれの企業のサンプルで、経営者予想利益のラチェッティングを検証するモデルを用いて分析を行った。 分析の結果、探索型戦略を選択した企業で経営者予想利益のラチェッティングの存在が確認されたのに対し、防衛型戦略を選択した企業ではラチェッティングの存在が確認されなかった。これにより、探索型戦略を選択した企業のラチェッティングの程度は、防衛型戦略を選択した企業よりも大きいという仮説が支持される結果となった。分析型戦略を選択した企業でもラチェッティングの存在が確認されたが、そのラチェッティングの程度は探索型戦略を選択した企業よりも小さいことが判明した。 以上の分析結果から、間接的にではあるが、防衛型戦略・探索型戦略・分析型戦略の選択が予算の設定に影響を与えることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、「研究実績の概要」で述べたように、防衛型戦略・探索型戦略・分析型戦略のそれぞれの選択が予算のラチェッティングに与える影響について検証を行った。しかし、Miles and Snow(1978)の戦略タイプの一つである受身型を選択した企業の抽出はまだ行えていない。受身型戦略を選択した企業を抽出する手法としては、Anwar and Hasnu(2017)やMaury(2022)等の先行研究があるものの、その数は少ない。検証に際しては、その推定手法の妥当性にも検討を加えて、場合によっては新たな受身型戦略を選択した企業の抽出手法を考慮すべきであると考えられる。 加えて、防衛型戦略・探索型戦略・分析型戦略を選択した企業を抽出する手法については先行研究でもいくつかの手法があげられている。例えば、Balsam et al.(2011)では、コスト・リーダーシップ戦略を選択している企業で「売上高÷設備投資額」、「売上高÷有形固定資産」、「期末従業員数÷総資産」の値が高くなる一方で、差別化戦略を選択している企業では「販売費及び一般管理費÷売上高」、「研究開発費÷売上高」、「売上高÷売上原価」の値が高くなることを示唆した。Balsam et al.(2011)は、これらの変数を公開財務データを用いて計算した上で、コスト・リーダーシップ戦略を選択した企業と、差別化戦略を選択している企業を抽出している。コスト・リーダーシップ戦略は防衛型戦略、差別化戦略は探索型戦略に近似することから、この手法を用いた補足的な分析も行う必要があるといえる。 以上のことから、特に分析手法についての今後の課題が多いため、本研究課題の進捗状況はやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、受身型戦略を選択した企業をAnwar and Hasnu(2017)の手法を用いて抽出することをまず行う。この手法で受身型戦略を選択した企業を抽出する場合、まず短・中期志向戦略として、直近の過去3期(当期と過去2期)の戦略を推定する必要がある。さらに、過去7期(当期と過去6期)の分の財務データを用いて当期の長期志向戦略の推定を行うことになる。ゆえに、分析に際して充分なサンプルサイズを得るためには、分析期間をさらに拡大する必要がある。加えて、何らかの変数を用いた新しい受身型戦略を選択した企業の抽出手法についても検討する必要がある。例えば、清水・田村・矢内(2022)で、受身型の特性が強いほどインタレスト・カバレッジ・レシオが低下していることが判明していることから、受身型戦略を選択した企業の抽出にインタレスト・カバレッジ・レシオを取り入れられるかどうかは検討の余地があるといえる。 加えて、防衛型戦略・探索型戦略・分析型戦略を選択した企業の抽出手法についても、Balsam et al.(2011)等の他の手法を用いた分析を行ったり、新たな抽出手法を検討する必要があるといえる。そのためには、経営戦略論に関する文献・論文を新たにレビューすることも必要となる。あわせて、予算のラチェッティングを検証するモデルの精緻化も、先行研究のサーベイを行った上で検討する必要があろう。 検証結果については、国内学会で発表を行った。2023年度は、アメリカ会計学会(AAA)学会やヨーロッパ会計学会(EAA)での発表、国内・海外への論文誌への投稿は行うことが目標となる。学会で収集された意見をフィードバックすることによって、追加的な実証分析を行い、理論構築について検討を重ねることを予定している。なお、現在は国内の論文誌への投稿を目指して、論文の執筆を行っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は本研究課題に直接関連する論文の執筆がまだ完了しておらず、海外の雑誌に投稿を行わなかったため、海外の雑誌に投稿する際に必要な英文校閲費やコピー代等の雑費が生じなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 2023年度は、新型コロナウイルスの流行の状況により不確定な部分が多いが、残額はコピー代等の雑費や物品費に使用する予定である。研究にあてられる時間は2022年度と比べて、それほど変らない見込みなので、使用することは充分可能であると考える。
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