研究課題/領域番号 |
21K01794
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
伊藤 和憲 専修大学, 商学部, 教授 (40176326)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | パーパス / BSC / 統合報告 |
研究実績の概要 |
1つ目の論文は,パーパスを実現するためには,BSCが効果的であると考えられる。ところが,BSCは株主資本主義の下で構築されたフレームワークであり,そのままではステークホルダー主義としては使うことができない。そこで,BSCの4つの視点をベースにしたレピュテーション・ドライバーと企業価値の関係を用いて,BSCをステークホルダー資本主義の下で利用できるように修正した。このようにすることで,統合報告書によるステークホルダーへの情報開示だけでなく,ステークホルダーからの指摘を取り入れた情報利用を実践できるようになることを提案した。 2つ目の論文は,CSR(企業の社会的責任)とコーポレート・レピュテーションが企業価値に及ぼす影響を文献サーベイしたものである。CSRによる財務業績への影響は正だけでなく負の場合もあり,またどちらともいえないというエビデンスがある。一方,コーポレート・レピュテーションによる財務業績への影響は有意に正であるだけでなく,経済価値だけでなく顧客価値,社会価値,組織価値からなる企業価値にも有意に正となったという文研をレビューした。 3つ目のの論文は,日本では,売って良し,買って良し,世間良しという三方良しの文化が多くの企業で実践されてきた。三方良しはステークホルダー主義の原点ともいえる概念である。たとえばコントロール・レバーとの関係でパーパスはどのように捉えるべきなのか,株主資本主義の下で構築されたバランスト・スコアカードは,ステークホルダー主義ではどのように扱えばいいのかなど,パーパスを実践するにはいくつかの課題がある。本稿は,ステークホルダー主義というパーパスの下で,ミッションやビジョン,戦略をいかに策定し,バランスト・スコアカードによって戦略を実現していくかについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合報告では,2021年度IIRCフレームワークでパーパスが新たに取り上げられた。また,パーパスはビジネス界で話題であり,今年度はこのパーパスを中心に研究を進めた。 パーパスについては,株主資本主義かステークホルダー主義かというガバナンス選択の議論が中心であるが,ほぼステークホルダー主義に収れんした感がある。これに対して本研究では,パーパスをいかに実現するのかというマネジメント・システムとの関係を議論した。マネジメント・システムとしては,レピュテーション・マネジメントやコントロール・レバー,あるいはバランスト・スコアカードを取り上げ,パーパスとの関係を明らかにした。その上で,統合報告との連動を図るべきであるという指摘を行った。 CSRについては文献レビューを行い,社会的課題の解決によって財務業績に影響を及ぼすかどうかという実証研究を行った。仮説検証できたという論文と仮説検証できなかったという論文があり,見解の一致をみていないことがわかった。統合報告では,社会的課題の解決と経済価値との関係がわかるように明らかにすべきであるとしているが,CSRと財務業績では仮説検証できなかった。 以上のように,統合報告にかかわる課題として,パーパス,および社会的課題と経済価値の関係を検討できたので,おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,中小企業の統合報告について研究する予定である。わが国では,ほとんど中小企業の統合報告書を作成しているケースがない。これに対して,イタリアでは,IIRCの外郭団体であるNIBR(イタリア事業報告ネットワーク)がサポートしていることもあり,複数の中小企業が統合報告書を作成したケースがある。 大企業では,機関投資家からの資金調達を意図して,投資家対応として統合報告書を作成するケースがほとんどである。これに対して中小企業では,投資家からの資金調達は考えにくい。そこで,統合報告書を作成する目的は何かを明確にすることは中小企業の統合報告書作成目的を研究する意味で大きな意義があると考えられる。 また,統合報告では,経営上の重要な課題であるマテリアリティは大きな課題の一つである。マテリアリティは誰にとってのマテリアリティか,どのように選択したのか,社会的課題であるマテリアリティは経済価値とどのような関係にあるかについてなどである。これらをインタビューを通じて研究する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究ではインタビューを行う予定であったが,企業から承諾をもらえず,予定した予算を利用することができなかった。ただ,研究そのものはインタビューを次年度に変更し,文献研究を中心に進めることができた。その意味では,研究はできたが,予算の執行は予定より少なくなってしまった。
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