本研究は、BEPSプロジェクトの進展に伴い、企業がどのようにガバナンスを強化し、税務戦略を開示しているかを明らかにすることを目的として、日本とイギリスの税務ガバナンスの実施状況と開示内容を比較研究した。また、インタビュー調査を通じた定性研究を行った。これにより、両国の違いがどのように引き起こされているかを考察している。 研究は、以下のアプローチで実施した。第一に、イギリスの税務ガバナンスとその開示制度を詳細に検証した。イギリスにおける税務戦略の開示義務の導入背景とその影響、法律で要請される以上の税務情報の開示を行っている企業の特徴を考察した。第二に、イギリスと日本の税務コーポレートガバナンスの実施状況と開示内容の比較研究を行い、どのような理論的背景がアプローチの違いを引き起こしているかを考察した。第三に、CSRと税務情報開示の関連性を中心にインタビュー調査を行い、日本企業は適切に納税しているにも関わらず,税務情報の開示に慎重である論拠を考察した。 研究の主要な成果として、以下の点が挙げられる。イギリス企業のガバナンスは、伝統的な株主優先から、よりステークホルダーを包括するアプローチへと移行している。そのため、イギリスの企業が開示する税務情報ではタックスガバナンス,国又は地域ごとの納税額及び経済的な貢献,TCFDと税金の関連について,法律で要請されるよりも詳しい情報を開示している。一方、日本企業は適切に納税しているにも関わらず,税務情報の開示に慎重である理由は、株主構成の特徴、税務調査の特性、役員給与の評価指標が影響していることが明らかになった。 本研究により得られた知見はグローバルな税務ガバナンスの向上とその開示の促進に向けて活用することが期待できる。
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