研究課題/領域番号 |
21K01809
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
木村 晃久 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (80585753)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | リアル・エフェクト / 財務会計 / 企業行動 / 優先株式 / 負債と資本の区分 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,会計情報開示の「リアル・エフェクト」を実証的に明らかにすることである。会計情報の測定・開示は,投資家の意思決定に影響を与えるとともに,企業の意思決定にも同時的に影響を与えることになる。この同時的な影響がリアル・エフェクトである。リアル・エフェクトは,企業行動そのものに影響を与えるから,企業が生み出すキャッシュフローに変化を生じさせる。これは,会計ルールの変化,つまり,会計情報が経済の資源配分にもたらす永続的で根源的な影響である。 本年度は,個別の会計事象のうち,優先株式の発行に焦点を当てて,会計ルールのちがいが企業行動に与える影響について検証をおこなった。IFRS(International Accounting Standards Board)では,金銭を対価とする取得請求権が付与されたような負債性の強い優先株式を発行した場合,それを経済的実質に照らして「負債」として認識することになるが,日本の会計ルールでは,そのような負債性の強い優先株式を発行した場合であっても,株式という形式を重視し,これを「資本」として認識することになる。分析の結果,日本の会計ルールに準拠して財務諸表を作成する上場企業は,普通株式の希薄化を避けつつ優先株式を「資本」として認識するために,それに金銭を対価とする取得請求権を付与することがわかった。いっぽう,IFRS適用企業は,優先株式が「負債」として認識されないように取得請求権をアレンジし,実質的にも資本性の強い優先株式を発行することがわかった。これらの結果は,負債と資本の表示区分ルールにリアル・エフェクトがあることを示唆するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の大まかなスケジュールとしては,1つの会計事象に関するリアル・エフェクトについて,1年間で研究をまとめることを目標としていた。学術論文のかたちにはなっていないが,負債と資本の区分表示ルールのリアル・エフェクトについて,研究成果をカンファレンスで報告できたため,おおむね順調に進展しているといってよいだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,昨年度カンファレンスで報告した退職給付会計に関するリアル・エフェクトと,本年度カンファレンスで報告した負債と資本の表示区分ルールに関するリアル・エフェクトについて,それぞれ学術論文としてまとめることになる。また,これら以外の会計事象として,減損会計の導入やヘッジ会計の導入に関して,データの収集と整理をおこなうことで,これらの会計事象のリアル・エフェクトが検証可能であるか否かについて,精査することを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,参加学会がオンライン開催であったため,旅費が発生しなかった。この余剰分については,オンライン学会・研究会に参加するための環境を充実させるため,PC関連機器の購入に充てる予定である。
|