研究課題/領域番号 |
21K01813
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
清水 泰洋 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80324903)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 会計史 / 会計記録 / 和式帳合 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,過去から現在に至る間に,会計がいかに変化してきたかを技術(テクノロジー)の側面から検討することを目的としている。ここでテクノロジーとは,会計にとどまらない技術やその成果としての人工物を意味する。会計は,新たな人工物を用いることにより効率化され,また,会計技術は時に別の新たな人工物によって発展する。 今年度は,このような会計的な人工物として,会計記録を行う対象である帳簿に注目して研究を進めた。具体的には,代表者の所属する神戸大学大学院経営学研究科に寄託されている日本毛織(ニッケ)資料のうち,草創期に該当する明治30年代の記録に注目した。同社においては,株式会社制度に従って財務諸表の作成が行われていた。それを記録の面から基礎づけるのが複式簿記であり,同社では銀行簿記のシステムが採用されていることが確認された。その一方で,同時代の同社の記録には,社長の川西姓の「川西商店」という名称での帳簿が残存している。これらの帳簿は,外見は日本毛織と同様の洋式帳簿の体裁を有しているにもかかわらず,その内容は和紙に墨で縦書きという,旧来の和式帳合の様相を強く有したものであった。このような帳簿が存在し,和式帳合の要素を持つ帳簿が同時的に記録された原因について,当時の商業教育や日本毛織の組織面に注目しながら検討を行った。その結果として,全面的な洋式簿記の採用を難しくする様々な制約が存在していたことを明らかとし,記録について単純な和式帳合・西洋式簿記の二分法を用いることの問題点を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題においては,ニッケ資料中,帳簿についての検討を行うため,学生を雇用しての資料の整理及びデータ入力を行うことを計画していた。しかしながら,コロナ禍のため学生の雇用が不可能となり,資料の収集の速度が著しく低下した。 現在においては,利用可能な範囲での資料を用いての研究を進行している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に難しかったニッケ資料の整理とデータ入力を加速することを予定している。具体的には,同時代の帳簿組織の体系を,現存する帳簿よりとりまとめ,帳簿を通じた会計管理が如何に行われていたかを解明する。 加えて,会計情報システムについての聞き取り調査を行うべく,企業への交渉を行う。コロナ禍により対面での調査が難しい場合には,オンラインでの聞き取り調査を実施する。 また,特に中小企業についての会計記録をデバイス面から支えた企業である帳簿製造業者についての検討を開始する。社史及び米国対象とする先行研究を起点として,あらかじめ印刷された帳簿の存在が,会計記録を如何に形成していくかについての検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,学生を雇用しての資料整理及びデータ入力を行う予定であったが,コロナ禍のため学生の雇用が不可能となり,予定していた人件費を支出できなくなった。また,同様の事情で旅費の支出も行うことができなかった。
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