最終年度は,会計記録を支える物資的技術を具体化するものして,人工物の関わりについて検討を行った。会計の歴史的研究において人工物がどのように取り上げられているかについて検討を行い,論考を1編公表した。帳簿や帳簿組織を調査対象とする研究は多いが,ここでは主として紙の帳簿以外を対象とした研究についてレビューを実施した。会計行為を支える紙の帳簿以外の記録手段として,古いものではタリーやチェッカーボード,近年では諸種の会計機やコンピューターが挙げられる。これらは,同時代の技術や社会水準に対応したものであるが,同時に,会計を取り巻く人々のあり方を変化させるものであった。また,記録手段以外の会計に関わる人工物に関する研究は,存在はするものの,その数は決して多くなく,今後の研究課題であることが判明した。 また,実際に用いられたテクノロジーとしての帳簿記録に関連して,戦時期の原価計算に関する記録において,詳細な原価管理を行っている事例について資料を発見した。現時点でその総体は明らかになっていないが,原価情報をわかりやすく伝達するための手段として,グラフや集計表などの表示に関するテクノロジーが使用された事例として,研究期間を終了した後であるが,さらに調査を進める予定である。 会計記録は,会計情報を記録し,それを報告にとりまとめるための器ではあり,それは技術的な側面からの検討対象となってきた。しかし,本研究課題においては,会計や会計を取り巻く人工物を含めてテクノロジーという観点から捉えることにより,記録が社会に影響を与えうるものであることが示された。
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