研究課題/領域番号 |
21K01817
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研究機関 | 長崎県立大学 |
研究代表者 |
壁谷 順之 長崎県立大学, 地域創造学部, 准教授 (50588944)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 厚生年金基金 / 適格退職年金 / 確定拠出年金 / 退職給付会計 / 即時認識 / 遅延認識 |
研究実績の概要 |
2021年度は研究3年間の初年度にあたり、小職の従来研究を整理・改善し、研究組み立ての基礎から取り組んできた。特に、既存の企業年金制度のうち、適格退職年金(2012年廃止)と厚生年金基金を見直し、データベースの構築および実証分析の方向性などを検証してきた。また、米国を中心とする海外研究の整理やデータ入手など、積極的に実施していく予定でいたが、新型コロナ禍での様々な制約(自粛等)を受け、計画・予定通りに実行できなかった点が反省点でもある。 研究初年度の実績を整理すると、厚生年金基金の廃止に伴う企業行動の要因分析について、一定の成果が得られた点である。結果概要は、以下の2点が挙げられる。第1に、同制度を廃止する企業のうち、退職給付債務等の負担が大きい企業ほど基金を廃止せず、結果として廃止時期が遅れることを意味する。第2に、上記同様、厚生年金基金を廃止する企業のうち、業績の良い企業ほど基金を早く廃止している点である。結果として、財務面などで制約のある企業は、廃止時期が遅れることも明らかになった。なお、同制度の分析にあたっては、当初より企業データベースの作成が有価証券報告書等を手作業で確認・チェックしながらになり、加えて、公表情報の多少や不統一などにより時間を要するため、一義的には厚生年金基金を「廃止」する行動に限定しての分析となった。いったん、ここまでの研究成果を学会報告および学会誌掲載することが決まったため、引き続き今後は厚生年金基金から確定拠出年金(DC)やその他の企業年金制度への移行などの内訳別整理を中心に継続取り組みしていく必要性が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度(研究初年度)は、コロナ禍での様々な制約(県外移動自粛等)のもと、既存データベースの見直し・修正や、実証分析結果の解釈、学会報告や査読論文投稿などを中心に活動してきた。研究が順調に推移した場合を想定すると、やはり海外研究との比較・検証や、データベース関連で当初想定よりも遅れたと判断している。一方で、査読論文投稿が受理(掲載)され、かつ、当該学会報告が実施可能となったことが順調な成果と言える。上述の概要欄にも記載したように、厚生年金基金はデータベースの構築が手作業による労力等で多くの時間を要するため、長期的な研究計画が必要であり、研究初年度としてのこれまでの成果と、今後の方向性を改めて見直すことができた。特に、従来取り組んできた適格退職年金のようにDC等への移行や廃止などをサンプル分類した上での実証分析パターンを、厚生年金基金でも取り入れていく必要があると感じている。そのための学会参加や他の研究者との交流・研究会なども積極的に実施していきたいと考えている。 データベース作業については、もう少し補足していく。現状、科研費等で購入している外部データは、公表されている情報にもとづくと10年近くの蓄積になる。これらをもとに、情報比較し、データ不十分箇所の整理や統一化などを丁寧に実施している。上述の通り、本研究ではデータベースの構築と途中段階での研究集約を同時並行し、厚生年金基金の「廃止」における研究成果を一定あげることができたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後(研究2年目)の方向性については、目下、推進中の厚生年金基金について、データベースの完成および実証研究の推進である。特に、厚生年金基金から他の企業年金制度への移行について、DCや中退共などをサンプル分類し、分析可能な水準へ引き上げる努力が求められる。また、これらと並行して会計処理や実例などをもとにした制度的な整理や問題点整理などを行っていく予定である。また、先行研究整理の際に、欧米諸外国の研究成果を踏まえて、海外企業とのデータ比較や検証にも取り組んでいきたいと考える。そのための様々なアドバイスや研究手法などのリサーチのため、関連学会や研究推進者との交流を通じて、研究技術の向上やブラッシュアップに精力的に取り組んでいく予定である。現状、コロナ禍での制約はまだまだ大きいものの、移動制限等が少しずつ緩和されてきていることもあり、可能な限り状況を見据えて行動していきたい。 最終年度となる2023年度は、中小企業の多くが加入している中退共について、取り組んでいきたいと考えている。中退共は、加入当初の優遇措置や税制面での節税効果などが従来存在し、中小企業(上場)の多くが制度導入している。こうした制度的な側面を鑑み、会計処理や節税効果などを踏まえて企業特性を一定明らかにしていく必要性があると感じる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度は、新型コロナ禍での様々な制約(移動の自粛等)により、学会参加活動を中心に研究者との意見交換や交流面などでほとんど活動が実施できなかった。この点による出費が実現できず、予算消化に影響が生じた。しかしながら、2022年度は当初より社会情勢が制限緩和の動きになりつつあり、2年振り(3年振り)で学会開催(対面)が期待される。これらをもとに、2年目は初年度の制約を挽回できるように、可能な限り積極的に行動を実現していきたい。
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