2023年度は、本件最終年度に当たることから、これまでの研究に加えて総括も踏まえた研究を推進・整理に努めてきた。まず、1年目では厚生年金基金を中心とした制度移行や廃止について研究に取り組んできた。2年目では確定拠出年金(DC)と中退共の制度移行や廃止について研究に取り組んできた。これらは、制度・実証の両面から取り組んできたもので、特に中退共については近年、中小企業の退職給付制度が失われつつある実情を鑑み、3年目では実証分析の他に制度分析をさらに踏み込んで解明に取り組んできた。その結果概要については、次の3点に整理できる。第1点目は、中退共の運用資産状況に関するものである。第2点目は、中退共の制度設計上の柔軟性である。第3点目は、中退共は退職一時金支給のみの制度という点である。これまで、中退共に関する先行研究は、制度解説や実務書(会計処理など)がいくつか存在しているが、本稿で取り上げた内容や制度・実証分析は多くないと考えている。本稿によって、いくつか興味深い内容が得られたのはとても有意義に感じている。 近年、企業年金制度においては、DCを中心に年金ガバナンスの重要性が高まりつつある。DCはその制度上、事業主と加入者の双方に求められる目的や役割・責任が果たして忠実に実行されているのかを注視することが重要である。特に、金融知識や資産運用などに知識が不足する従業員たちも少なくないと推測できるため、十分な説明責任(アカウンタビリティ)を果たす姿勢が欠かせないと考える。中退共はDCとは異なる制度である一方で、確定拠出型(企業サイド)という点や加入規模(企業数、従業員数、運用資産額など)が増加傾向にある点などは共通している。大企業では退職給付制度が依然として継続する中で、中小企業ではこうした年金ガバナンス等を踏まえた存続意義が問われることに留意したい。
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