令和4年度は,本研究課題の成果を2度にわたって学会報告した。具体的には,令和4年6月18日に開催された日本会計研究学会第147回中部部会および令和4年12月15-16日に開催された2022 Asia-Pacific Conference on Economics and Financeである。両報告とも保守主義尺度の開発に関する報告をおこなった 具体的には,Ball and Shivakumar (2005)によって提案された尺度の問題点を指摘するとともに,その尺度の修正を提案した。彼らは,Dechow et al.(1998)のモデルを区分線形回帰モデルに拡張したが,モデルの制約が現実の会計行動と乖離しており,その推定結果は彼らの仮説を支持しない。そこで本研究では,モデルの制約を緩和するために閾値回帰モデルを導入するとともに,新たな仮説を設定し検証をおこなった。推定結果は,仮説を概ね支持するものであった。 学会報告以外にも,研究課題を達成するために,様々な研究活動をおこなった。これまでに金融危機を主題とした主要な会計研究のサーベイを終えていたが、ファイナンス分野における金融危機と企業行動の関連性を主題とする先行研究に関するサーベイは必ずしも十分ではなかった。そこで、これらの論文を精査するとともに、実証モデルを構築する際のコントロール変数を熟慮し,実証分析に用いるデータベースを構築することを目標としていた。 先行研究では統計解析にあたり,時系列分析およびパネルデータ分析などを使い分けるが,代表的な財務指標がコントロール変数として用いられるだけでなく,各推定において求められた統計量が他の回帰モデルのコントール変数として用いられる。また直接的に測定できない変数をモデルに組み込むことにより,より多くの要因をコントロールしていた。この知見を次年度以降の実証モデルの構築に反映したい。
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