研究課題/領域番号 |
21K01834
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
岡野 一郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30285077)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英語教育 / 言語相対性 / 植民地主義 / グローバル化 / 教養 / 岡倉由三郎 / 英文学 / ウォーラースティーン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、英語を近代世界システム及びそのイデオロギーとの関係で捉えるための理論構築を行い、ここで得られた観点から日本の英語教育をめぐる状況を捉え直すことである。 理論面では、ウォーラースティーンが導入した「ヨーロッパ的普遍主義」の三類型、すなわち「野蛮に対する普遍的価値」「本質主義的個別主義」「科学的普遍主義」の区別に依拠することとし、日本の英語教育の分析にあたっては新聞データベース、政府文書、教科書等の文献の内容分析、および聞き取り調査を計画している。 2021年度においては、上記の理論面での作業を中心的に行い、同時にデータ収集作業を段階的に開始する計画であった。結果としては、2021年度の研究は文献の収集とその理論的、および資料的分析にほぼ費やされることになった。 まず理論面においては、英語支配をめぐる議論、言語相対性論、メディア論の文献を収集し、基本的な枠組みを構成、「言語は交換可能か?」というテーマをたてて学会にて報告を行った。また、近現代における社会システムの構造変動と、その最新の段階としての新自由主義的な社会状況について、文献収集および理論的検討を行い、新自由主義を超えた「ネットワーク社会」の未来というテーマにて学会報告を行った。 実証面においては上記の視点を日本の英語教育の歴史に当てはめていく予定であったが、感染症の状況に鑑みて聞き取り調査など移動を伴うデータ収集は次年度に回すこととし、2021年度は文献の収集に注力した。しかしここから得られたものは少なくない。ウォーラースティーンが素描していた三つの段階が日本の英語教育史の中におおよそ確認できたが、修正も必要であることが分かった。これについては、現在大まかな状況把握の段階にとどまり、公表には至っていないが、2022年度の学会報告や論文執筆につないでいく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論面においてはかなりの進捗があり、学会報告も行ってきたが、事例研究については成果を出すに至っていない。最大の理由は感染症の状況に鑑みて移動を伴う調査を断念して次年度送りにしたことにある。本来聞き取り調査と調査票調査をセットで行う調査設計であったため、これら全体の成果が出ないままとなった。その分、日本の英語教育史、英語教育論争史について文献調査にエフォートを集中し、これについては一定の成果を得た。ただし2021年度後半からの出発となったため年度内にはまとまった形にはできなかった。 以上のように研究の遅延箇所は、2021年度の研究は文献の収集とその理論的、および資料的分析にほぼ費やされることになった点といえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度前半においては感染症の状況に注意しつつ、学外での調査を準備するとともに、2021年度に蓄積した成果の発表を準備する予定である。 調査については本来2021年度中に予備的に開始するはずだったものを、できるだけ迅速に行うべく、7月までに計画と調整を済ませた上で、8~9月での実施を目指す。秋の各学会の大会にはその調査結果は間に合わないが、すでに行った日本の英語教育史、英語教育論争史について文献調査の成果を出すことができる(2022年夏に予定していた国際学会が感染症のため2023年度に延期となったため、国際学会では研究全体の総括を発表することになる)。 2022年度後半においては、グローバル化以降、学術研究と市場経済の結びつきが強まっていることの検証、英語教育の方向性が異文化理解から実用面へと、人文学から科学へとシフトしてきたことの検証を、他の外国語の教育との比較を含めて行う。現時点で想定されるその見取り図を以下に示しておく。 まず「野蛮に対する普遍的価値」については、岡倉を典型とする戦前の教養主義的な英語教育観が該当する。ウォーラースティーンが想定した植民地支配と異なり、日本社会はすでに独自の言語を持っており、パーマーに代表される直説法による教育はなじまなかったが、何であれこの時期の特徴は英語教育の目標が「英文学」なる規範に一点集中していたことである。次の変化が起こるのは太平洋戦争直前の時期で、英語は国際共通語として捉えなおされ、それぞれの文化の独自性が強調されるようになる。これが戦後にも継承され、英語教育の目標は異文化理解であるとされる(「本質主義的個別主義」の段階)。さらに20世紀末になって教育に新自由主義的な競争原理が持ち込まれ、英語教育からは「文化」の側面が抜け落ちていく(「科学的普遍主義」の段階)。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、感染症の拡大の懸念から、聞き取り調査の予定を2022年度に延期したことにある。また、学会参加もオンラインばかりであったため最小限の参加費だけで済んだことも影響している。その一方、2022年度予定だった国際学会(ISA)が2023年度に延期されたことから、予算使用計画は全体的に後ろ送りになっている。 したがって2022年度の使用計画は、国際学会参加が無くなる一方、2021年度実施予定だった予備的調査の費用をさらに含むものとなっている。
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