研究課題/領域番号 |
21K01846
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
金光 淳 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (60414075)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アート・フェスティバル / アートワールド / 認知構造 / 連想ネットワーク調査 / 現代アート / アーチスト調査 |
研究実績の概要 |
当初の研究計画では、国際芸術祭「あいち2022」と瀬戸内国際芸術祭において、アート・フェスティバルに関与する4種類のアクター、1)参加アーチスト;2)キュレーター;3)主催者としての県職員;4)協賛企業に関して、共通のフレームワークを用いて、芸術祭のテーマである<Still Alive>から連想する概念を引きだす認知調査を企画していたが、個人情報保護規定のから2)と3)の回答者の連絡先を知らせてもらえず、やむなく調査を断念した。そこで1)の参加アーチストと4)の協賛企業に的を絞って調査を行うことに変更し、メールやSNSアドレスを探索し、調査票の送付先リストを作成したが、調査票は未送付である。それより先に、ある世界的な日本人参加アーチストに的を絞って調査することに方針転換した。まず徹底的な文献調査を行い、彼女の他の参加アーチストとの交流のネットワークに関する過去のデータを収集した。追加的に彼女への質問紙調査でアーチスト間の交流関係情報を聞き出したほか、国際芸術祭「あいち2022」のイベントに参加し、個人的にも知己を得た。このデータの分析結果は、2つの学会で発表したほか、この6月の国際ネットワーク分析の学会でも発表を行う。このデータ解析からは、1960年から70年にかけてNYCを中心にメールアートを通じて国際的な前衛アーチストのネットワークが形成され、それが周辺に東欧や南欧に広がっていった様子が明らかになった。 他方、瀬戸内国際芸術祭の方は、芸術祭の開催地の一つである豊島において、観光客の調査を行なった。具体的には豊島美術館を訪れる鑑賞者に対して認知転換調査を行い、美術館訪問直後の豊島美術館のイメージを連想ネットワークで描かせ、続いて豊島の産業廃棄物処理場の生々しい写真を見せた後の印象の変化を調べる実験的調査である。データの多様な解析で興味深い結果を導き出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想外の情報保護制限から調査の一部を断念せざる得なかったものの、上述のように対案的な調査を行うことができたため、進捗状況そのものは概ね順調であると判断できる。特に世界的な参加アーチストの知己を得ることができたため、研究がさらに実りあるものに展開する可能性があり、思わぬ幸運を手にすることができた。 また他の理由としては、今回の国際芸術祭「あいち2022」における関係アクターの認知構造のズレを測定するというテーマは、研究してもありきたりの結果しか出ないことが分かったからである。というのは、前回のあいちトリエンナーレ事件を受けて、今回のトリエンナーレにおいて関係者の間には、大きなズレを起こさないように事前に周到に調整が行われていた上に、コロナ禍時下の緊急事態において、関係者の間にはそもそも求心的なコンセンサスが形成されたことが、参加したキュレーター・トークでも感じることができたからである。したがって当初の研究視点を変えて接近する方が、成果を期待できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
国際芸術祭「あいち2022」に関して、先の著名な女性アーチストは、国際芸術祭「あいち2022」の他の参加アーチストに対して「Moveイベント」への参加とメールへの回答を依頼する内容のメールアート作品を作成している。独自に作成した参加アーチストの連絡先リストは実は完全なものである。そこで今回彼女が作品制作時に使用した連絡網を利用させてもらい、参加アーチストに対して調査依頼をかけることができるため、調査を開始する予定である。また協賛企業に対しても作成したリストにしたがって質問紙調査を送付し調査を行う予定である。 他方、瀬戸内国際芸術祭の方は、国際芸術祭「あいち2022」と同じく、協賛企業調査を行い、両アート・フェスティバルでの比較を行う予定である。また豊島において、過年度行った鑑賞者調査の回答サンプル数を増やすために追加的に過年度と同様の観光客の現地調査を行い、データの信頼性を上げる予定である。その際、豊島美術館のサウンドスケープ(音風景)に関して特別な調査も企画している。これは過年度調査において豊島美術館のイメージで「静けさ」や「音」に関する回答が多かったことに対応するためである。この研究はかなり独自性の高い別の研究へと発展する可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた調査への協力要請が不可能になり、調査計画を大幅に変更し、文献調査などを優先したため、データ入力のアルバイト業務が発生しなかった。そのため当該助成金が発生した。翌年度においては、追加調査を含め実施する調査が増えたため、アルバイト業務が10万円ほど発生するほか、海外での論文発表に伴う出張費が20万ほどが発生する計画を立てている。
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