当初の予定では国際芸術祭「あいち2022」について、芸術祭に参加しているアクターの間の芸術祭に関するビジョンのズレをについて調査する予定であった。しかし、国際芸術祭「あいち2022」の前身「あいちトリエンナーレ2019」での「表現の不自由展」をめぐる紛糾の余波を受けて主催者や参加アーチストに関する情報提供のガードが固く、調査への協力が得られなかった。そのため、継続調査している瀬戸内国際芸術祭2022での観客調査と国際芸術祭「あいち2022」の出展アーチストの調査に対象を限定し、研究の枠組みを大幅に変更して研究を継続した。 瀬戸内国際芸術祭2022においては、豊島美術館前で鑑賞者調査を行い、社会的実践としての現代アートの持つ問題提起力、想像力、社会批判力を実証的に明らかにした。産業廃棄物問題という負の遺産を抱えた豊島のアートサイトにおいて、美術館+アート作品が想起する美的判断の生成メカニズムを明らかにする認知構造変化の社会実験調査を行なった。産業廃棄物の写真誘導法を利用した実験では以下が判明した。1)認知構造変化者は,変化前には「水,白,水滴」などの少数のコンセプトに集中し、変化後では「美しい」というコンセプトが卓越し、社会批判的なコンセプトも出現する分散的認知構造である。豊島美術館が表象していたのは、かつての産業廃棄物の島を感じさせないほど自然に囲まれ、再生された「美しい」豊島であった。2)連想ネットワーク分析などによって、認知変化の有無と鑑賞者の年代、豊島事件知識に関する社会的条件が確定された。3)またアレゴリカルな「美的効果」を引き出した「文化媒介者」としての社会調査者の触媒的役割が見出された。 また国際芸術祭「あいち2022」の出展アーチストの一人にインタビュー調査を行い、アーチスト間の社会ネットワークをメールアートによる交流から明らかにし可視化した。
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