研究課題/領域番号 |
21K01847
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
竹内 幸絵 同志社大学, 社会学部, 教授 (40586385)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 広告史 / デザイン史 / 歴史社会学 / ヴィジュアルメディア研究 |
研究実績の概要 |
前年度までに収集整理した基礎資料に基づき考察を深め、四つの観点から成果を纏めた。(一)1960年代の芸術の総合運動発露の場であった「草月アートセンター」において開催されたテレビ・コマーシャル催事を検証、これを中心に、芸術映画やその周辺の制作者らと広告(テレビ・コマーシャル)との融合を考察した。(一)は、昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載した、本研究の軸である「昭和35年」以後の展開への視野拡張の必要性に基づくものである。(一)の成果を踏まえた(二)は、本研究の射程である1960年を対象とした。ここで中心としたのは、当該時期のグラフィックデザインの動向に関する検証である。この時期東京オリンピックを中心としてグラフィックデザインは社会から注目される存在だった。一方で広告効果という意味で最も優位性があったのはテレビ・コマーシャルだった。戦前から活躍するグラフィックデザイナーらはこの「動的デザイン」には目を向けず国家プロジェクトのデザインに専心した。この実態と、その社会的意味を考察した。 (三)は、(一)(二)の前段階を含む初期日本のテレビ・コマーシャルの成立・変遷史である。放映が開始された1953年以降初期にはディズニーの影響を受けたフルアニメーション表現が多数を占めた。それは戦前のアニメ映画制作者らによって制作されていた。これが1960年前後になると、海外の脱ディズニースタイルの潮流にも感化され、日本独自のリミテッド・アニメ・コマーシャルへと変化していく。それは単に効率的という理由で齎されたものではなく、アニメ本来の芸術性への覚醒があった。この覚醒が映画やテレビ番組に先んじてテレビ・コマーシャルにおいてこの時点で起きたことも論証した。 (四)は、(二)(三)を踏まえ、戦前期の識者らに既にあった「動的デザイン」への覚醒を論証し、それが社会に齎した影響を検証したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年目の今年度までに、基礎資料調査及びこれに基づく研究成果を、初年度1本、次年度2本、今年度4本、計7本の論文として纏めることができた。これらの成果では、対象とする時期の実態の詳細な調査のみならず、その先の時代の展開、及びテレビ・コマーシャルの成立初期の胎動と、その時期の制作者による戦中期の映画媒体の制作経験からの継承、さらには日本で実際にテレビ媒体が実用化する以前の戦中期に、既に動的広告への興味が制作者らに明確に芽生えていたことまでを突き止めた。これらの成果が示す時代の拡大範囲は、研究開始当初に予想していた範囲をはるかに超えるものであった。そして、このための範囲を遡った基礎資料研究の整理が必要であることを認識している。この時代の拡大は本研究の総合的成果としての充実であり、目的とする視覚性を証左としたメディア史研究の方法論構築に対し、大きな意味を持つと考えている。 以上のように当研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の「研究の目的」「研究実施計画」から大きな変更はないが、「現在までの進捗状況」に示した通り、3年間の調査・研究を終えた現時点で、射程とする期間を「昭和35年」を軸としつつも、これへの影響に関して戦前戦中の資料にまで遡って検証する必要性を認識するに至っている。従って最終年度は戦前戦中の資料の再整理を行ったうえで、目的とする視覚性を証左としたメディア史研究の方法論構築に広い視野で取り組むこととする。これによる基本的な推進方策への影響はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の研究の推進方策に示した通り、本研究が射程とする期間は「昭和35年」を軸としつつ、これへの影響に関して戦前戦中の資料にまで遡って検証する必要性が認識された。この戦前戦中の再整理については3年目に実施する予定であったが、資料の性質に適した研究協力者に依頼することが出来なかった。最終年度はこの点を解決し、戦前戦中の資料の再整理を行ったうえで、目的とする視覚性を証左としたメディア史研究の方法論構築に広い視野で取り組む。
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