本研究はニュース・メディアによる調査報道の取材過程を明らかにしようとするものである。とりわけ情報公開制度をいかに活用して、社会で起こるさまざまな事象を捉え、報道という結果に結びつけるかに重点を置いた研究である。その土台として、初年度には主要紙による報道事例を丁寧に拾い上げることで、情報公開制度がどのような取材テーマに用いられ、公文書からどのような情報を引き出し、報道に結び付けられているかの実像に迫った。 2年目からは、新聞社、テレビ局、ウェブメディアの代表的な事例を選択し、取材者に対して聞き取り調査を行いながら、実際にどのような公文書を取り寄せ、読み込み、新たな事実を発掘し、報道するに至ったかを確認していった。その結果、かつては対人的な関係を深めて証言を引き出すことが取材の常道とされていた状況とは異なり、公文書を的確に取り付け、事実を確認して、確固たる独自の調査報道が確立されていることを明らかにすることができた。 最終年度の3年目は、とりわけ「屋久島ポスト」「ニュースつくば」など、地域で地道に調査報道を手掛けるウェッブメディアに着目し、実態調査を進めた。その成果は、日本メディア学会において、2度にわたってワークショップを企画し、多くのジャーナリズム・メディア研究者から知見を得た。国内では既存のマスメディアが衰退し、世界的にはいわゆる「ニュース砂漠」と呼ばれる状況が広がる中、独自の調査報道を続けるこれらの小規模なウェブメディアが「ハイパー・ローカル・メディア(ジャーナリズム)」としての存在感を増す傾向に着目し、存続・拡大の条件を検討する研究にも広がる可能性を見出すことができた。 なお、3年目においては、研究成果の一部を、ブラジル・リオで開催された国際オーラル・ヒストリー学会(IOHA)においても、2つのセッションで発表する機会を得た。
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