研究課題/領域番号 |
21K01850
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
山本 哲司 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (80340496)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 伝統仏教 / 寺院解散 / 廃寺 / 都市開教 |
研究実績の概要 |
本研究は廃寺後の生活における寺院活動・宗教活動の新たなスタイルや福祉的意味を問うものである。浄土真宗本願寺派寺院を対象に、フィールドワークによって寺院解散の手続き上の課題、住職家族の動向、門徒の信仰の継承等の具体的な状況を確認し、関係者が寺院の解散についてどのように捉えているかを分析していく。本年度は新型ウイルス感染拡大防止の移動制限によりフィールドワークが実施できない期間があったが、そのなかでも寺院の解散をめぐる下記の知見が得られた。 ・過疎地域から離れ「都市開教」を行った住職と家族の事例について。 島根山間部の寺院に生まれ育ったAさん(故人)は、過疎地域を離れ都市開教(千葉県)に宗教活動の意義を求め、寺院を設立するに至った。現在、浄土真宗本願寺派教団は、関東圏での都市開教を組織的に推奨しているが、Aさんの活動はそれ以前に行われた事例として非常に価値があるものである。経済成長期に取り組まれた宗教活動と現在の島根との関わりをふりかえりながら、Aさんの宗教活動の理想と現実をご家族がどのように受け止めていたのかをうかがうことができた。Aさんの都市開教への意志は、現在のご家族にも継承されている。これらの内容は論稿にまとめており(未発表)、現在、語り手による内容承認を得る段階にある。 ・寺院解散の手続きと課題に関する事例。 島根県邑智郡、江津市、益田市において寺院の解散に関わった人々のインタビューを行った。解散の手続きを担当し解散後の地域の祭祀を担う住職たち、無住寺を支え続けた門徒代表、門徒でなくても無住寺院を護る人々、寺院から離れた寺族のお話しをうかがった。寺院に関わる人々からすれば、鬱蒼とし屋根の朽ち落ちた本堂を前にしても門徒やその他の地域の人々とのつながりが感じられ「廃寺」と呼び難い側面があることがうかがえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は新型ウィルスの感染拡大防止の移動制限が行われたため、予定していたフィールドワークの計画は大幅に変更された。当初の計画では、寺院解散から廃寺に至る具体的な状況把握のため、島根(浄土真宗本願寺派山陰教区)の訪問を予定していた。島根は浄土真宗の文化的な特色が強い一方、過疎による寺院解散の危機が、もっとも懸念されている地域である。 年度前半の訪問が難しいため、調査計画を変更し、フィールドワークのための予備知識の充実をはかり、山陰教区寺院関係者の都市部への転出について確認を行った。しかし教団組織は「末寺」である各寺院の解散後の動向まで情報収集を行っていない。 そこで、教団組織へは各地域訪問時の「教区教務所」での協力を正式に文書で依頼し、他方で、インフォーマント(本願寺派住職)の協力を得て、島根の寺院にルーツを持つ関西在住の僧侶Bさんを紹介いただいた。Bさんは山陰教区から都市部へ進出したA住職の親類であり、千葉県に開かれたA住職の寺院では衆徒として活躍している。こうして山陰教区の過疎地域と同時に関東圏で行われる都市開教のフィールドワークへの道が開けた。 年度後半は、移動制限が解除された頃に集中的にフィールドワークの時間を設け、A住職の出身地域である島根県邑智郡をはじめ、江津市・益田市の解散寺院関係者を訪問しインタビューを行った。ただし年度の後半から末かけて集中してフィールドワークを行ったため、データの丹念な精査は当初予定より遅れている。都市開教の事例の発掘もあり、過疎地域の寺院解散の課題のとりかかりである山陰教区のデータの精査と、その中間報告としての研究会・学会報告や論稿へのまとめが当初の予定に達していない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、山陰教区の調査内容の精査から富山教区のインタビューにとりかかる。まず直近の作業課題として山陰教区(島根)でのインタビュー・データの整理と分析から、過疎地域の解散寺院の課題状況についていくつかのひな形の作成を考える。そのためには一部残されているインタビューの文字起こしの必要もある。 続いて、それらのデータの吟味から得られた知見と課題を念頭におきつつ、富山教区でのインタビューに取り組む予定である。まず山陰教区での課題を明確にするためにも中間報告という意味で研究会や学会での報告を計画する。内容は山陰教区のインタビューから寺院解散の現状と課題を掘り起こし整理するものである。また、山陰教区の話題は都市開教の課題へと大きく展開した。A住職家族の都市開教の経験を通じ、過疎地域から転出し都市開教を行う活動の変遷とその意義について報告する予定である。 上記の次年度前半に行う山陰教区の整理の上に、富山教区において寺院解散後の人々の状況に関わるインタビューを行う。浄土真宗本願寺派の各教区の地域性を示すデータによれば、山陰教区は門徒たち周辺住民の浄土真宗理解が篤く、寺院運営は門徒集団の運営力によってまかなわれる傾向が強い。それに比べると、富山教区は全国のなかでも住職主導の寺院運営の傾向が強いというデータがある。この両者の傾向は、寺院解散後の人々の状況や意識に何らかの違いとして現れるのだろうか。解散に至る経緯や、解散後の状況に対する関係者の語りの分析をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型ウィルスの感染拡大防止の移動制限が行われたため、予定していたフィールドワークが当初計画の通り実行されなかった。当初の計画では、年度の前半から寺院解散から廃寺に至る具体的な状況の把握のため、島根(浄土真宗本願寺派山陰教区)の訪問を予定していた。また、同様の理由により学会や研究会での参加報告を実施できなかった。そのために次年度使用額が生じている。 次年度では本年度に予定していたフィールドワークの実施と本年度の補足、ならびに研究会活動が予定される。
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