前年度までに廃寺ー寺院解散について以下の知見が得られた。1)寺院関係者の語りでは廃寺と寺院解散という表現に精神的距離がある。2)寺院は社会関係の解散により廃寺へと進むことをあらためて確認した。寺院解散には物的精神的な種々の財の整理と精算が行われ、膨大な事務処理がともなう。3)寺院解散はこうした処理作業の中心人物を得ることで進む。中心人物は、周辺地域の代務住職だけでなく門徒惣代や寺院とは関係しなかった地域住民や住職本人の場合があり、各寺院と地域の事情から登場する。過疎化や寺院離れのため中心人物を見いだせない事例もある。4)さらに各寺の解散へ至る状況は、門徒の有無、門徒との関係性、周辺寺院との関係、住職家族の状況により多様である。特に門徒の有無と住職家族の状況は、真宗の寺院関係や寺院運営の構造的な問題と関わる。家族運営という継承の伝統や、寺院間の上下関係が課題である。各地では人口減少を背景とし下位の寺院から解散が進んでいる。5)また、解散後の門徒の真宗文化の継承の精神性、6)解散後開教する住職の真宗継承の精神と家族への思いについて確認した。 本年度は真宗の伝統的な文化が比較的希薄な四州教区(高知)から、寺院解散とその後の課題を学んだ。高知は弱い教勢の拡大のため明治以降に真宗の別院が置かれた地域である。真宗による伝統的な地域活動は希薄で現在は無住の寺院が多い。住職や代務住職が門徒に解散の相談を呼びかけてる複数の事例から、伝統的な門徒集団の文化性の違いにより解散が進む状況がうかがえた。さらに長野教区の取材から、明治に開教した門徒のない寺院が平成の解散に至るまで、いかに地域住民と組(そ)が支えたかを報告した。地域に存在した宗教性を確認し、伝統的門徒集団のない弱さを指摘した。同時に、真宗の文化を護持する組の力と、文化継承としての解散後の記憶と記録を形にする活動の重要性を確認した。
|