研究課題/領域番号 |
21K01865
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
西原 和久 成城大学, 社会イノベーション学部, 名誉教授 (90143205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 沖縄と砂川 / 反基地運動 / 反基地意識 / 反戦平和運動活動家 / 沖縄返還 / 基地返還 / 東アジアの平和と共生 / 環太平洋の基地問題 |
研究実績の概要 |
令和3年度からの本研究「反基地意識の形成と展望―東アジアの平和と共生をめざす沖縄と東京の女性たちの生活史」は、反戦平和運動の活動家のうち、とくに女性活動家に焦点化して、その生活史と生活世界での思いを聞き取り、そこから教訓を得て、未来展望を考える研究である。研究対象は、主に5名に聞き取り調査をおこなう予定(準備・予備調査を含む)であった。 ただし、令和3年度はコロナ禍の大波の到来で、高齢女性への聞き取りは制限せざるを得なかった。具体的には、沖縄の離島に住む80代の女性活動家に対しては、コロナの猛威を振るう東京から、これまた人数比でコロナ被害が大きい沖縄の、その離島への訪問は、断念せざるを得なかった。さらに、コロナ禍に関しては、前回得た科研費がコロナで外国出張ができないなどの理由のために、2年延長し、令和3年度に終了したという事情もある。 そこで、令和4年からは、研究の焦点を少しだけ変更して、反戦平和の男性活動家もしっかりと視野に入れて、「仕切り直し」をしたいと考えた。もちろん、前年の「研究の概要」等でも男性を排除するつもりはまったくないと記していたが、令和4年度からの仕切り直しの研究では、しっかりと男性活動家も対象にし、かつ可能な限りかれらとの対比のなかで、女性活動家の特性(特性が特にない場合を含めて:したがって性差の特性の有無も含めて)を探っていきたい。 なお、令和3年度も、この新たな科研課題による研究準備を行わなかったわけではない。たとえば、出張旅費などが不要な、東京・砂川関係での2名の方への長時間の聞き取り調査(準備を含む)は実行した。そして沖縄関係を含むその他の人びとに関しては、令和4年度の研究課題となった次第である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は当初、以下の3つであった。①戦後日本で反基地・反戦平和の活動に関わってきた沖縄と東京の高齢女性5名に焦点化し、彼女たちの生活史の把握を通して東アジアの平和と共生への取り組みについて歴史的に整理する。②その際の歴史的な検討時期は、沖縄と砂川における(1)1950-80年および(2)1990-2020年となる。その理由は沖縄と砂川の基地問題および沖縄返還への対応活動とその経過と結果に関する検討のためである。③そうした整理や検討を踏まえて、これら女性活動家が思い描いてきた未来社会への展望と、変化があればその変容過程を明らかにすること。 これまでの準備的な調査研究では、現在80代半ばの女性活動家は、60年安保時に大学生で安保反対運動にコミットし、その後は基地問題と自衛隊問題に取り組みつつ平和運動にも注力し、とくに2000年代に入ってからもこうした問題に積極的に関わりながら、同時に戦前日本の中国進出への反省から、中国の人びととの和解に努めていることを確認した。もう一人、砂川闘争に父親が深く関わった女性は、自らが学校教員退職後の2010年代に砂川に社会活動団体を立ち上げ、反戦平和活動だけでなく、子ども食堂や不登校児の学習機会の提供など、若い世代への教育的試みも進めている。この点も、反基地意識の広がりを感じさせるものである。 しかし、上記の「研究の概要」で述べたように、女性活動家の歴史や思考や行動の推移を検討するという課題のもと、男性活動家も新たに数名を視野に入れてインタビューを含め研究することとした。そこで、④対象となる女性活動家の生活世界(思想と行動)を、同世代の男性活動家のそれと比較検討し、比較自身の妥当性も含めて、さらに男女の差異というよりも共通性を浮かび上がらせることで、とくに上記の②と③に関してより深みのある分析をできると考え、若干の軌道修正をすることとした。
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今後の研究の推進方策 |
砂川関係は既に着手し、今後も推進可能だ(隣の横田基地も視野に入れたい)。沖縄関係は今年度から本格的に取り組む。女性活動家に関しては触れているので、まず選定から始める男性活動家については、現時点では、(1)SKさん(80代後半):宮古島生まれ、琉球大学出身で、もと地元新聞記者。反復帰論者として著作活動も行い、現在も講演活動などをしながら反戦平和を論じている。(2)MIさん(70代後半):もと琉球で大学教員をし、その間に伊江島の反戦平和資料館の創設にも関わり、退職後も積極的に反戦平和運動を実践している。(3)MKさん(80歳直前):東京生まれで、かつて首相秘書官を経験し、その後英国留学を経て琉球大学大学院に入って東アジアの連携を研究し、10年以上前から沖縄の読谷に住み反基地運動にも従事している。(4)YFさん(75歳前後):東京生まれで芸術関係の仕事を退職後、沖縄における新基地建設反対運動を支援する組織を関東で組織し、しばしば沖縄で反基地運動を実践している。(5)SNさん(70歳前後):沖縄の生まれ育ちでゴザ暴動にも参加していたが、最近新たな沖縄独自の政党を立ち上げようと考えているウチナーの活動家(なお、以上の他に、砂川闘争に関わったGTさん(80代後半)も大変興味深い歴史を担っているので、ぜひ調査対象の一人に加えたいが、高齢のため様子を見ることにしたい)。以上の方々は、すでに個人的には面識があり、研究を進めることに関して大きな障害はないと判断している。 なお、沖縄と砂川の反基地運動の特性を捉えるためには、他の地域の反基地運動との比較も重要だ。それゆえ、可能な限り、関東の米軍基地関連施設の検討の他、三沢、岩国、佐世保などの日本の他の米軍基地問題から、済州島の新基地問題やハワイやグアムの米軍基地問題も、文献資料研究も含めて、研究推進のために積極的に視野に入れたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の「研究の概要」でも示したが、令和3年度はコロナ禍の大波到来で、研究対象である高齢女性への聞き取りは制限せざるを得なかった。具体的には、沖縄の離島に住む80代の女性に対しては、コロナの猛威を振るう東京から、これまた人数比でコロナ被害が大きい沖縄の、その離島への訪問は、断念せざるを得なかった。さらに、コロナ禍に関しては、前回得た科研費がコロナで外国出張ができないために、2年延長し、令和3年度に終了したという事情もある。 そこで、研究の焦点を少しだけ変更して、反戦平和の男性活動家もしっかりと視野に入れて、仕切り直したいと考えた。もちろん、前年度の「研究の概要」等でも男性を排除するつもりはないと記していたが、本年度からの仕切り直しの研究では、しっかりと男性活動家も対象にし、かつ可能な限りかれらとの対比のなかで女性活動家の特性(特性が特にない場合を含めて:したがって性差の特性の有無も含めて)を探っていきたい。 なお、令和3年度も、この新たな科研費による研究準備を行わなかったわけではない。たとえば、東京・砂川関係での2名の方への長時間の聞き取り調査(準備を含む)は実行した。しかし、この調査は近隣の調査地で、交通費などの支出はまったくなく、使用額が0となった次第である。
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