研究課題/領域番号 |
21K01868
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国籍 / ドイツ / 国民国家 / シティズンシップ / 民族 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
コロナ禍が終息した今年度は,久しぶりにドイツに渡航し,ベルリンの州立図書館にて資料収集をおこなった。ベルリンでは,第二次大戦後のドイツ連邦共和国の建国直後において,ナチ時代にドイツ帝国が併合した領域において付与されたドイツ国籍に対し,どのような「処理」がなされたのかに関する資料を収集した。 一つはオーストリアに関するものである。オーストリアは1938年にドイツ帝国の一部に併合された際,その領域内の住民にドイツ国籍が与えられたが,戦後オーストリアが単独の国家として独立し,すべてのオーストリア国民からドイツ国籍が消滅したとされた。戦後の連邦共和国では,1956年に第二次国籍問題規制法が制定され,戦後ドイツ領内に継続的に居住している場合,当人がその意志を表明することでドイツ国籍を回復できることとされた。もう一つは,1939年以降ドイツ帝国に編入されたポーランドやウクライナにおいて,エスノ文化的ないしエスノ人種的な理由で集団的に国籍を付与された人々にかんするものである。1955年に出された第一次国籍問題規制法で,ナチ時代に東欧で強制的に付与されたドイツ国籍が有効とみなされるようになった。今年度は,1940年代後半から1950年代前半期の連邦共和国において,ナチ時代の国籍政策の「戦後処理」がどのように行われたのか,統治の新聞記事,裁判記録,議会での議事録などを収集しながら,また,統治の法学者の論文を参照しながら,その分析を試みた。 そのほかの大きな研究実績としては,2021年度以後研究を続けてきた,ドイツの国籍法・国籍政策の歴史をまとめた単著『国民とは誰のことか ドイツ近現代における国籍法の形成と展開』を上梓することができたことをあげたい。この本では,19世紀以来のドイツの国籍の歴史を歴史社会学的な視点から分析した上で,現代の国籍政策における問題点と課題を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツ国籍の歴史については一定の成果を得られたが,現代のドイツ国籍の現状についての検討がまだ進んでいない。特に2024年に国籍法が改定されたが,この過程やその意義についての検討が進んでいない。また,2023年度に取り組みを始めた,戦後連邦共和国におけるナチ時代の国籍政策の「戦後処理」についても,まだ検討する余地が大きく残されている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる予定の2024年度には,【現在までの進歩状況】で記した二つの問題を中心に研究を進める。一つは2024年の国籍法改定への過程とその意義についての検討である。第二は,連邦共和国初期の国籍上の「戦後処理」についての検討である。前者については,専門職の人材不足からくる経済的要請や移民・難民の統合政策との関連から,今後の「ドイツ国民」のあり方,その「アイデンティティ」のあり方が,どう変化するかが課題となる。 それにくわえ,ドイツ国籍と「欧州」ないしEUとの関係性についても検討を行う予定である。2024年6月には5年に一度の欧州議会選挙が予定されている。2010年の通貨危機,2015年の難民危機以後,EU加盟国間の対立や国境管理の復活など,国民国家への「回帰」が語られるようになっている一方で,前回の2019年の選挙では各国で投票率が顕著に高まっていて,欧州人の「欧州」に対する関心が高まっていることも確認できる。今回の選挙も,ロシアとウクライナの戦争,イスラエルとハマスの戦闘が展開されるなか,欧州の安全保障上の意義が問われている。そのような状況を踏まえつつ,ユーロと並び「EU市民権」は欧州統合の重要な「歯止め」だが,国籍とEU市民権との関係性について,帰属の「脱ナショナル化」が今後進展するのか,あるいはそれに逆行していくのかについて考えてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度から2022年度にかけて,コロナ禍によりドイツでの資料収集ができなかった。そのため,計画していた渡航費,滞在費が使用されなかった。2023年度はこの研究の期間で初めてドイツに渡航したが,依然研究費には余剰が生まれた。2024年度は2023年度同様,夏にベルリンでの資料収集・調査を予定している。
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