研究課題/領域番号 |
21K01886
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
井沢 泰樹 東洋大学, 社会学部, 教授 (60303997)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 在日コリアン / 自殺予防 / 精神障害 / 自助グループ |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度までの研究の蓄積の上に立って、在日コリアンの自殺予防対策の一環として、在日コリアンで精神障害をもつ人びと、またこれまで自殺念慮を持った経験や自殺企図の経験を持つ人々を対象とする自助グループの開設におもな精力を注いだ。 2021年に筆者がおこなった165名の在日コリアンからのアンケート調査において、「在日コリアンのメンタルヘルスについてどのようなことが求められるか?」の問いに対して、「自助グループの必要性」が多数を占めた。在日コリアンで自殺念慮/企図の経験者、精神疾患を持つ人々は日本社会で孤立しており、「在日」どうしのつながりを求めていることが浮き彫りになった。そこで筆者は既存の自助グループのなかで趣旨を理解していただき、自助グループへの参加視察をさせていただけるところを探し、福岡県の自助グループに参加視察を2023年1月から始めた。そのなかで自助グループの意義や運営の仕方を研究したいと考えている。そして2023年3月から月に1回のペースで、ZOOMを使ったオンラインによる「コリアンルーツ・メンタルヘルス・セルフヘルプグループ」を開始した。初回は計4名、2回目は6名が参加した。また、この活動をはじめるにあたっては2023年2月7日のデジタル朝日新聞、朝日新聞夕刊に筆者のインタビューとともに記事が掲載された。また在日韓国人団体の機関誌「民団新聞」にも記事が2023年1月23日号に掲載された。 参加者の中には、精神障害者の他の自助グループに参加している人もいるが、そうした場では自身が在日コリアンであることを言っていない人も多い。自身の素の姿を出すことによって交流することのできる自助グループの場でも、それをすることができない在日コリアン精神障害者の現状がある。そうした現状に鑑み、この「コリアンルーツ・メンタルヘルス・セルフヘルプグループ」の意義は大きいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年に筆者がおこなったアンケート調査において、「在日コリアンのメンタルヘルスについてどのようなことが求められるか?」の問いに対して、「在日コリアンにフレンドリーな精神科医を増やすための啓発活動」「自助グループの必要性」に加えて、「在日コリアンのためのいのちの電話」という回答も多かった。そのため筆者は2022年度より「在日コリアンいのちのメール」を開設した。この「いのちのメール」へのアクセス数は多くはないが、一つ一つの相談内容は重篤なものが多い。 たとえば、精神疾患を持つある在日コリアン女性は両親は他界したが、同居する兄から暴力を受けており、これまで2度自殺未遂をした。筆者は担当のソーシャルワーカーと話しをしたが、このソーシャルワーカーは社会福祉士であり精神保健福祉士ではなかった。筆者は当該の女性が精神疾患を持っていることから精神保健福祉士が対応するべきではないかと助言をし、担当が精神保健福祉士に交代した。そしてこの女性は現在、家を離れ自立生活にむけて準備を進めている。 また、2023年3月より開始した在日コリアン自助グループについては、「研究実績の概要」でも述べたように、社会生活の中では在日コリアンであることを明らかにしていない人も多く、このように在日コリアン精神障害者、自殺念慮企図経験者は、日本社会において孤立をしている。月に1回の自助グループは参加者にとって、同じ境遇の人と出会い交流をして、日本社会における緊張感と孤立感から一時解放される貴重な機会となっているようだ。ある参加者はこの自助グループを「月に一度の心のメンテナンスだ」と表現していた。 このように今回の研究テーマである「在日コリアンにおける自殺予防対策」は、狭義の「研究」にとどまらず実践的なアプローチが求められる。こうした各事象をケーススタディとして今後も実践的な研究を進めていきたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年3月より開始した在日コリアン精神障害者・自殺念慮企図経験者の自助グループ活動をより有効に進めるため、筆者自身が自助グループの運営スキルを高めていくことが求められる。そのため趣旨をご了解いただいた福岡県の、精神疾患を持つ人たちの自助グループへの参加視察を継続して、自助グループをより有効に機能させるための運営の仕方を学習していきたいと考える。そして在日コリアン自助グループにおいて一定の回数を重ねたのちに、自助グループ参加者から感想や意見を聴取し、この活動の効果の有無等について明らかにするとともに、その後の活動に活かしていきたいと考える。 2023年度は、第119回 日本精神神経学会学術総会(2023年6月22~24日)における研究発表(ポスターセッション)「在日コリアンと精神障害・自殺予防対策」(採択済)をおこなう。この発表をとおして、この学会の会員がどのような感想、意見、また疑問を持ったのかをEメールで寄せてもらい、研究発表の効果を明らかにする。 また、「在日コリアン精神障害者にフレンドリーな精神科医の育成」のための啓発活動として、2024年度の第120回日本精神神経学会学術総会において、シンポジウム「在日コリアンと精神障害・自殺予防対策」(仮)を開催すべく、福岡県在住でいわゆる「在日症候群」の提唱者である精神科医・金長壽氏の協力を得て登壇者を検討中である(2023年9月に申請予定)。このシンポジウムでは、①在日コリアン精神障害者と自殺実態の現状 ②在日コリアン精神障害者・自殺念慮企図経験者にみられる、いわゆる「在日症候群」 ③精神科医療場面におけるクリニカルバイアスの問題 ④在日コリアン精神障害者・自殺念慮企図経験当事者から日本の精神科医に対する要望、といった内容を盛り込むことを検討中である。
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