研究課題/領域番号 |
21K01887
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
武井 勲 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (30597307)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アジア系アメリカ人 / 日系アメリカ人 / 住宅保有率 / 過密住宅 / テキサス州 |
研究実績の概要 |
今年度は、2つの異なる課題に着目することで、研究目的の達成を試みた。1つ目の課題は、米国における主要な人種・民族集団の間に見られる、住宅保有と過密住宅(同居者数が、物置や廊下を除く部屋の総数を上回る状態で、米国では社会福祉の古典的な尺度の1つとされている)に関する考察である。米国の社会調査データ、American Community Survey(ACS)を用いて、世帯レベルで見た割合(つまり、現在の住居は持ち家か否かを、世帯主のみが回答した場合の数値)と、個人レベルで見た割合(つまり、現在の住居は持ち家か否かを、そこに住む家族の該当者全員が回答した場合の数値)という2つの異なる住宅保有率の測定方法を比較検証した。考察の対象は非ヒスパニック系の白人、黒人、ヒスパニック、そしてアジア系アメリカ人で、ヒスパニックとアジア系アメリカ人については、主な民族集団別に分けた上での分析も試みた。 現時点での分析結果によると、住宅保有率は分析単位を個人とするか世帯とするかによって、大きく異なってくることが判明した。これは、数多くの先行研究で取り上げられることのなかった核心的な問題で、米国におけるマイノリティの住宅保有率に対する理解を大きく前進させるものと言える。 2つ目の課題は、テキサス州における日系人の功績と生活体験に関する調査である。今年度実施した現地調査では、第二次世界大戦期にテキサス州に存在した日系人の収容施設のいくつかを訪れ、モニュメントや案内板の内容を記録したり、今日でも確認可能な遺構を撮影した。また、19世紀前後に現地に渡った端緒期の日本人の暮らしについて、彼らの子孫である日系アメリカ人3世を数名特定し、1世と2世の時代について彼らから新しい情報を得ることが出来た。更に現地では、20世紀後半のテキサス州を知る、高齢の日本人移民数名に対するインタビュー等も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、今日のアジア系アメリカ人が持つ幅広い特徴(例えば教育・所得・賃金水準、職業分布、貧困率、住宅保有率など)について、統計分析に基づく実証データを提示することを目指していた。ところが、初年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、米国テキサス州で予定していた統計分析作業が実施出来なかったこと、そして2020年以降は、先の見通しが立たない中、「テキサス州における日系人の功績と生活体験」という新たなテーマを掲げ、コロナ禍後の現地調査を目指して、既存の資料や文献の収集および理解に時間を割いていたという事情があった。 それでも、2022年度にはテキサス大学オースティン校人口研究所での量的分析の作業が実現した。また、研究内容について現地の専門家の意見を仰ぐ機会を得ることも出来た。現在は、アジア系アメリカ人の住宅保有率と過密住宅に関する分析を進めていて、最終的な統計モデルを選定し、分析内容の範囲を確定する作業に入っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の2023年度については、上述の通り、アジア系アメリカ人の住宅保有率と過密住宅についての統計分析作業に区切りをつけ、その成果をペンシルベニア州フィラデルフィアで8月に行われる第118回アメリカ社会学会大会で報告し、その後加筆・修正を経て、米国の学術論文に投稿する予定である。 この研究課題については、当初はアジア系アメリカ人と白人との比較考察を予定していたが、上述の通り分析単位次第で結果が大きく変動することが判明した。そこで、黒人とヒスパニックも考察の対象に加えることで、住宅保有と過密住宅に関する研究手法の問題点それ自体に疑問を投げかけ、より正確で包括的な分析結果を改めて提示するという趣旨に変更している。 テキサス州における日系人の調査については、2023年度も新規のインタビューを実施したり、史跡や博物館を訪問するなどして、更なるデータや資料の獲得を目指す。聞き取り調査については、数名の日系アメリカ人3世と4世の他、数名の比較的高齢の1世の移民、そして現地で活躍する、比較的最近の日本人移民数名に対して実施する予定である。 テキサス州における日系人に関する成果の一部は、既に論文や研究ノートとして出版されているが、最終年度には更なる論文の投稿や、学会報告を予定している。将来的には、研究活動を継続するために更なる予算の獲得を目指し、書籍という形で広く社会に成果を公表することに挑戦したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
米国テキサス州に出張した時期はかなりの円安であったため、当初予定していた内容よりも現地での研究活動を縮小せざるを得ないと判断した。ところが実際には、予算の執行に慎重になり過ぎてしまい、次年度使用額が発生するという事態につながってしまった。当該助成金が生じたのは、為替が関連した特殊な事情によるものである。最終年度では次年度使用額を有効に運用し、より充実した海外出張を実施することで、出来る限り多くの研究成果を達成したい。
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