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2021 年度 実施状況報告書

二極分化社会における自殺傾向と社会学的自殺理論

研究課題

研究課題/領域番号 21K01900
研究機関広島大学

研究代表者

江頭 大蔵  広島大学, 人間社会科学研究科(社), 教授 (90193987)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード自殺理論 / 自殺の性差 / 労働の二極分化
研究実績の概要

令和3年度の研究計画のうち、①社会学的自殺理論の更新については、「集団本位的自殺」と「アノミー的自殺」の共通性を示す具体的事例として、1945年の沖縄戦における集団自決を「攻囲的自殺」の例証として検討した。具体的には、沖縄県教育委員会編,1974,『沖縄県史 第10巻 (各論編 9 沖縄戦記録 2)』における住民の戦争体験の記録から、アメリカ軍の慶良間諸島、読谷村上陸の際に発生した集団自決について、集合的高揚感と非日常的絶望感が入り交じった行動形態と心理状態を確認し、デュルケームの自殺理論における統合作用と規制作用が反対方向の作用であることの根拠となるかどうか検討した。②男女別の自殺要因の分析については、当該年度までに公表されていた2015年の都道府県別年齢調整自殺死亡率と経済指標の関連を男女別に分析し、自殺率と給与水準および労働時間の関係が男女によって大きく異なることを見いだした。すなわち、男性については自殺死亡率は給与水準とは負の相関(r=-.59)、労働時間とは正の相関(r=.41)を示すが、労働時間は給与水準と負の相関(r=-.71)にあり、給与水準が一定であれば労働時間は自殺死亡率には影響しない(r=-.01)。女性の場合も給与水準と労働時間は負の相関(r=-.82)にあるため効果を相殺しているが、他方が一定であれば、給与水準(r=-.49)ばかりか、労働時間(r=-.79)も自殺死亡率とは強い負の相関を示す。女性についてのみ、労働時間が長いほど自殺が抑制されるということであり、このことがどのように説明できるか今後の課題として設定した。なお、本研究の基本スタンスである社会の二極分化が自殺率に影響しているという認識については、江頭大藏,2022,「自殺のトレンドと日本の労働環境」日本社会分析学会監修『生活からみる社会のすがた』学文社,97-114において整理した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

令和3年度の研究計画については、新型コロナウイルス感染拡大の第4・5・6派による行動制限の影響が大きく、計画していた出張旅費の執行が全くできず、文献の検討や統計データの解析がもっぱらであった。また、2020年に始まる新型コロナウイルス感染症が社会生活におよぼす影響は大きく、当該年にはほとんどの年齢層において女性の自殺率が上昇し、20代前半では前年比で40%も増加したことが判明した。自殺要因に性差があるというのは本研究の基本的アイデアであるが、そのことを示す新しい現象(コロナ禍で女性の自殺率だけが上昇した)が生じ、研究計画を微修正する必要も生じた。

今後の研究の推進方策

①社会学的自殺理論の更新:デュルケームが『自殺論』で提示した自殺理論における「統合」と「規制」の原理は、その後の理論的展開で、道徳理論における「善」と「義務」、宗教理論における「合一」と「禁忌」へと変形して推移したが、沖縄戦等における集団自決の分析を通して集団本位主義とアノミーの「共通性」を示すことで、上記諸理論の相互関係を整理する。
②男女別の自殺要因の分析:地域別自殺率の差異を従属変数とした重回帰分析およびパス解析の因果モデルを作成し、時系列的な係数の変化、各係数の比較等の検討から、労働環境の「二極分化」効果が男女の性別によって異なることを示す。
③過労自殺の質的分析:過労自殺が発生する経緯について、過労死・過労自殺の労災認定に関する行政訴訟、民事訴訟資料に基づき検討することにより、労働環境が危機対応態勢として集団本位主義とアノミーを結びつけ、それを固定化してきたことを検証する。
④自殺対策の効果の検証:2012年以降の自殺減少傾向に対する「自殺総合対策大綱」の効果の検証。

次年度使用額が生じた理由

令和3年度の研究計画については、新型コロナウイルス感染拡大の第4・5・6派による行動制限の影響が大きく、計画していた出張旅費の執行が全くできず、文献の検討や統計データの解析がもっぱらであった。また、2020年に始まる新型コロナウイルス感染症が社会生活におよぼす影響は大きく、当該年にはほとんどの年齢層において女性の自殺率が上昇し、20代前半では前年比で40%も増加したことが判明した。自殺要因に性差があるというのは本研究の基本的アイデアであるが、そのことを示す新しい現象(コロナ禍で女性の自殺率だけが上昇した)が生じ、研究計画を微修正する必要も生じた。
令和4年度には、令和3年度に実施できなかった沖縄県立図書館、島根県立図書館、和歌山県立図書館への資料収集のための出張を計画するとともに、コロナ禍で生じた女性全般、とりわけ10代後半から20代前半の年代の自殺増加の要因分析のための図書・資料の購入を追加で進める予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 図書 (1件)

  • [図書] 『生活からみる社会のすがた』(第6章「自殺のトレンドと日本の労働環境」)2022

    • 著者名/発表者名
      江頭大蔵(日本社会分析学会監修)
    • 総ページ数
      18
    • 出版者
      学文社
    • ISBN
      978-4-7620-3150-2

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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