研究課題/領域番号 |
21K01900
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
江頭 大蔵 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 教授 (90193987)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自殺理論 / 自殺の性差 / 労働の二極分化 |
研究実績の概要 |
令和4年度の研究実績で、令和3年度から持ち越した研究計画として、男女別の自殺要因の分析がある。2020年から全世界に影響をおよぼした新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の自殺傾向にも影響を与えてきたことが徐々に明らかとなり、とりわけ男性と女性では別様に影響している可能性が示唆された。そこで、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するための様々な規制が、社会経済的要因の変化を媒介として、どのように男女の自殺傾向に影響をおよぼしているかという観点から分析を進めた。2010年からは減少傾向に転じた日本の自殺者数は2019年には20,169人と2万人を割り込む直前までとなったが、2020年には21,081人と反転して増加した。この反転現象は、2019年の6,091人から2020年の7,026人へと935人(15.4%)の増加を示した女性の自殺によるもので、男性の自殺者数は減少傾向を維持したままであった。2019年と比較した2020年の女性の年齢別自殺率は、80~84歳をのぞくすべての年齢層で増加しており、特に20~24歳では人口10万人当たり10.1から14.3へと40%以上も増加した。また、過去5年間の平均と比較して2020年に自殺者数が増えた女性の属性は、平日に職場や学校に通勤・通学している比較的若い年齢層であった。このような変化の背景にある要因として、女性は男性と比較して行動制限による他者との対面的接触の減少が自殺傾向をより促していることを、自殺の社会統合理論を用いて説明したが、論拠としたデータは2003年および2005年の自殺率とソーシャル・キャピタル指数の関連、2015年の自殺率と労働時間の関連についての地域別統計にとどまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年に始まる新型コロナウイルス感染症が社会生活におよぼす影響は大きく、当該年にはほとんどの年齢層において女性の自殺率が上昇し、20代前半では前年比で40%も増加したことが判明した。自殺要因に性差があるというのは本研究の基本的アイデアであるが、そのことを示す新しい現象(コロナ禍で女性の自殺率だけが上昇した)が生じ、研究計画を微修正する必要も生じた。その際、2020年の都道府県別年齢調整自殺死亡率を用いて影響関係を分析する計画であったが、従来であれば当該年度の2年後に厚生労働省から公表される同統計が令和4年度には公表されず、過去の統計を援用して傍証を示すことにとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
①男女別の自殺要因の分析:地域別自殺率の差異を従属変数とした重回帰分析およびパス解析の因果モデルを作成し、時系列的な係数の変化、各係数の比較等の検討から、労働環境の「二極分化」効果が男女の性別によって異なることを示す。その際、新型コロナウイルス感染拡大防止措置による社会経済的要因の変化の影響も加味したモデルとする。 ②過労自殺の質的分析:過労自殺が発生する経緯について、過労死・過労自殺の労災認定に関する行政訴訟、民事訴訟資料に基づき検討することにより、労働環境が危機対応態勢として集団本位主義とアノミーを結びつけ、それを固定化してきたことを検証する。 ③自殺対策の効果の検証:2012年以降の自殺減少傾向に対する「自殺総合対策大綱」の効果の検証するため、自殺率から予測される減少率を上回る減少を示した福井・高知・佐賀・長崎各県の自殺対策の特徴を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の研究計画については、同年度中に公表されると予測された2020年の都道府県別年齢調整死亡率が公表されなかったため、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を含めた因果モデルの検討ができなかった。公表され次第データを解析して分析を進める。 また、自殺数が最大であった2003年と比較して、自殺率から予測される減少率を上回る都道府県を検討したところ、福井・高知・佐賀・長崎の各県が浮かび上がり、資料収集の計画を変更した。令和5年度には各県の公立図書館への資料収集のための出張を実施するとともに、上記の分析のために必要となるデータ、とりわけ自殺率に影響をおよぼす給与額と労働時間の負の相関関係をもたらす要因を探るための、各種データの入力作業の謝金を使用する。
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