研究課題/領域番号 |
21K01905
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
前田 尚子 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (50320966)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小農世帯 / ライフサイクル / 家族戦略 |
研究実績の概要 |
都市近郊農家の家族戦略を析出するために、農林省第3期農家経済調査の対象となった福岡県の17農家について、経営収支と労働配分の動態的分析を行った。17世帯を家族周期段階(労働力の利用可能性という観点から親世代と子世代の2世代をリンクさせたもの)によって4つに分類し(労働力の充実期、縮小期、逼迫期、漸増期)、グループ別に分析を進めた。令和3年度は、逼迫期・縮小期・充実期にある13世帯の分析を終えることができた。主な知見はつぎの3点である。 (1)農家のとりうる家族戦略は家族周期段階に強く規定されている。積極的に経営改善に取り組み、一定の成果を挙げることができたのは、2世代の壮年夫婦に労働力化した傍系成員を加えた充実期の農家にほぼ限られる。夫婦と幼い子どものみの逼迫期には、有効な経営改善策を打ち出すことが難しく、「前のめりの経営戦略」(労働力を伴わない経営拡大)が破綻を引き起こしかねない状況にあった。親世代が高齢期にある縮小期では、経営改善よりも、現状を維持して次世代に引き継ぐことに意を注いでおり、老母がライフサイクルの世代的連結を調整する役割を果たしていた。 (2)家族戦略は、農外就業機会が豊富であるという地域的条件の下に組み立てられていた。充実期の農家では、傍系成員の通勤兼業賃金をプールして、農業の機械化や多角化、副業の入替等を進めていたが、それらはこうした地域性を有効活用するものといえる。 (3)男性の農外就業機会の拡大は、結婚の遅れを媒介として、家族労働力の周期的律動のパターンに固有の特徴をもたらす可能性が示唆された。 以上の研究成果は、福岡県という限られた地域ではあるが、小農世帯の経済と労働の実態を明らかにするものであり、都市新中間層とは異なる近代日本の家族像を描き出すための第1歩と位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染症予防のため、県をまたぐ移動が制約され、大学ならびに自治体図書館の利用も制限されていた期間があったので、資料収集作業は遅れているが、福岡県の農家経済調査データを用いた農家の経営収支と労働配分の事例分析については順調に進めることができた。 さらに、特筆すべき点として、農家経済調査データの計量分析の機会が開かれたことがある。本研究が主な分析対象としている農林省第3期農家経済調査については、一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センターにて全国調査結果のデータベース化がなされている。令和4年3月に、データベースの利用が認められたので、今後は、全国の618世帯を対象として、経営収支と労働配分の計量分析を行うことが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ひきつづき、第3期農家経済調査の対象となった福岡県農家の経営収支と労働配分の事例分析を進める。対象農家17世帯のうち、逼迫期・縮小期・充実期にある13世帯については令和3年度中に分析を終えたので、令和4年度は、残る漸増期4世帯の分析を行い、ライフサイクル全体を見据えた総括的な考察を加え、鉱工業地域における農家のライフサイクルと家族戦略という観点から論文にまとめる。 (2)一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センターによる第3期農家経済調査データベースを用いて、農家のライフサイクルと経営内容の計量分析を行い、全国的な動向を把握したうえで、地域差の析出を試みる。 (3)(2)の結果にもとづき、福岡県とは異なる産業特性を持つ地域(例えば、繊維工業地域)を選定して、農家の経営収支と労働配分の事例分析を行い、家族戦略の地域性を産業化パターンと関連づけて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症予防のため、資料収集を目的とする出張が十分に行えなかったことによる。感染状況も落ち着いてきているようなので、令和4年度は、遅れを取り戻すべく、資料収集活動に重点的に取り組む予定である。
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