研究課題/領域番号 |
21K01909
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
横山 寿世理 聖学院大学, 人文学部, 准教授 (00408981)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 集合的記憶 / 親沢人形三番叟 / アルヴァックス / 伝承 / 伝統芸能 |
研究実績の概要 |
本研究は「親沢人形三番叟」という伝統芸能を、親沢集落に継承される「集合的記憶」として捉え、その不変性を舞台映像分析から明らかにすることを目的にしている。また、このような伝統の伝承・継承を果たす集合的記憶の働きを明らかにすることで、その集合的記憶の理論枠組みを修正することになると予想している。 「親沢人形三番叟」は、7年毎に人形・囃子の担い手(全12名)が交代して、それまでの担い手は指導役に回る。弟子→親方→おじっつぁを7年ずつ合計21年担当するという芸能である。この芸能は、200年あまり続いてきた親沢諏方神社の春祭り(4月第2日曜日)で奉納され、それに先立ち3月下旬から「 舞台開き」、練習、「検閲」、「舞揃え」という行程で進む季節限定の取り組みとなる。したがって、本研究の方法は、季節限定的に「親沢人形三番叟」の舞台を撮影することと、その舞台の場面を時間運びや空間配置とともに分析することにある。 しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から「親沢人形三番叟」の舞台は2年連続で行われなかった。 そのため、本研究申請時の研究計画で初年度(令和3年度)に弟子4年目の舞台の撮影・映像分析を行う予定だったが、これを変更した。録画済みの映像から、分析対象の人形を変更して研究をすることを模索したが、予備映像の入手困難や手持ちの映像の部分的な欠落がわかったところである。また、改めて「親沢人形三番叟」に関連する資料収集を行い、これまで見つけられなかった佐久市を中心とした先行研究を複数探し当てることができた。また、「親沢人形三番叟」と同じ役者の継承方法をもつ三番叟が他にもあることを見つけた(埼玉県蓮田市「閏戸の式三番」)。 さらに、本研究の分析枠組みとなるアルヴァックスの「集合的記憶」理論自体の研究を進めて、次年度以降の研究に備えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究申請時に予想できていたことだが、春祭りの中止により「親沢人形三番叟」の映像を録画することができず、各年の映像比較が中断している。そのため、手元にある映像の分析範囲を広げ、人形の「大神宮」以外の人形の動きを親方世代の映像と比較することを模索したが、その他の映像は一部分しか録画できていなかったことに加えて、予備的な録画映像を手に入れることもできなかった。したがって、分析が難しいことになったわけだが、この一連の映像探索には時間を要した。というのは、物理的な映像の録画メディアの所在の確認ではなく、人形によっては、舞台の時間を短縮している年もあり、親方世代の舞台映像が完全であるかどうかが簡単には判断できなかったためである。 そこで、これらの確認作業と並行する形で、親沢人形三番叟の分析枠組みとなるアルヴァックス自身による「集合的記憶」の実証的研究La topographie legendaire des evangiles en Terre sainte(『聖地における福音書の伝説地誌』)の翻訳を他の研究者とともに進めた。また、「集合的記憶」理論の研究を論文にまとめることを進め、『社会学評論』への論文投稿を2022年2月末に果たすことができた。掲載は確定していないが、研究申請前から引き継いだ理論研究を論文にすることができたことになる。 映像分析の展開に進展はなかったが、分析の枠組みとなる理論研究を進めることができたため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまで本研究以外で撮影された舞台映像もあるとのことがわかっているので、その探索と貸与を模索することとしたい。これは、令和4年の「親沢人形三番叟」も中止されたためである。あわせて初年度に収集した文献や資料の読み込みを進めるとともに、他地域の三番叟や、実施された小海町松原地区の松原諏方神社御柱祭の見学を通じて、今後の展開を模索したい。 これらの研究推進方策は、新型コロナウイルス感染拡大に大きく左右されるため、並行して「集合的記憶」理論の論文化とアルヴァックスの著作で未邦訳の『聖地における福音書の伝説地誌』を翻訳することで、「集合的記憶」論の精緻化を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
この次年度使用額は「親沢人形三番叟」映像撮影用のタブレット購入を予定していたので、同芸能の再開によってはタブレット購入にあてる。また、研究対象の「親沢人形三番叟」が実施されなくとも、新型コロナウイルス感染拡大防止対策の緩和によっては長野県南佐久郡小海町への現地資料調査を進めるために、次年度使用額の一部を利用する予定である。
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