研究課題/領域番号 |
21K01910
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
永野 由紀子 専修大学, 人間科学部, 教授 (30237549)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | インドネシア / バリ島 / ヒンドゥー / 社会学 / 家族 / 親族 / 農村 / 屋敷地 |
研究実績の概要 |
研究の初年度は、東南アジア村落の家族・親族・近隣組織についての先行研究および資料を収集・分析した。同時に、インドネシア・バリ・ヒンドゥー村落の家族・親族関のこれまでの研究をとおして明らかにされたことを2回の学会報告と学術論文(永野 2022)に集約し、今後の調査研究の課題を明確にした。 (1)東南アジアは、統計的には夫婦と未婚の子供から成る夫婦家族世帯が多い。通説では、父系・母系という単系出自にこだわらない父方・母方の双方にひろがる双方的親族関係を特徴とする。だが、その実態は、エリアや母語や宗教などのエスニシティの違いに応じて多様である。タイやマレーやインドネシア・ジャワでは、男女分割相続で、夫方や妻方や新居制といった結婚直後の居住制において特定のルールや規範をもたない。 (2)タバナン県プヌブル郡ジャティルイ村にあるグヌンサリ慣習村の2つの部落(バンジャール)の事例により、結婚の際の夫方居住と男子均分相続の慣行が示された。祖霊を祀る屋敷寺院を共有する父系的な親族が屋敷地に共住している屋敷地共住結合が、バリ・ヒンドゥー村落の特徴であることも明らかにされた。 (3)男子均分相続にあっては、成人する男子の数が多いほど、農地が零細になり、貧困になる。娘婿や養子、スハルト政権下の人口政策である外島への移住や「二人っ子政策」として知られる産児制限等々の様々な家族戦略を駆使して、農地の零細化を回避し、夫婦家族が経済的に自立するための工夫がなされていることが分かった。 (4)バリ・ヒンドゥーの村落社会を構成する最小の生活単位は夫婦家族である。ただし、バリ・ヒンドゥーの夫婦家族は、より大きな親族結合や近隣結合から切り離された西欧近代の核家族世帯とは質的に異なる。夫婦家族を超えた農村の相互扶助・生活共同のための親族結合および近隣居住集団の役割を明らかにすることが、今後の課題として明確にされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、新型コロナウィルスの感染拡大のため、海外での現地調査が実施できず、インドネシア・バリ島で予定した予備調査を遂行できなかった。国内の移動も制限されていたので、関連諸機関での資料収集や国内現地調査についても、実施を見合わせるものがあった。 代わりに、研究テーマに関連する文献や資料の読解を深め、2回の学会報告と学会誌への学術論文の投稿をとおしてこれまでの研究で明らかにされたことを整理し、次年度以降の調査研究の課題を明確にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスによる海外渡航制限が緩和されることが見込まれる2022年度には、本年度実施できなかったインドネシアでの現地調査を実施する予定である。インドネシアのエスニック・グループやバリ島の親族や村落に関する研究が進んだオーストラリアやインドネシアなどの海外の研究者とのリモートやオンラインによる研究交流を図るとともに、国内の現地調査を実施する。国内の関連諸機関での文献・資料の収集を継続し、研究課題についての理解を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」で書いた理由により、本研究の経費で最大の比重を占めていた海外の現地調査の旅費が本年度は使用されなかったため、次年度に繰り越した。国内の研究機関での資料収集や国内の現地調査のための旅費の使用も、国内の移動制限のため、予定よりも抑えられた。 採択された助成金額が申請額より少なかったので、海外・国内での移動の制限が緩和される中で、これらの金額は、来年度以降に有効活用できると考えている。来年度は、渡航可能な状況であれば、インドネシアでの現地調査を最優先し、国内の現地調査を実施すると同時に、資料収集や研究成果の公表を遂行する予定である。
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