研究課題/領域番号 |
21K01920
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小川 慎一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30334618)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 有料民営職業紹介事業 / 高度ホワイトカラー / 経営管理者 / 科学技術者 / 資本の自由化 |
研究実績の概要 |
当該年度は2016年度に実施した聞き取り調査に基づき、日本における高度ホワイトカラー有料民営職業紹介事業の草分け的な人材紹介企業、ならびに、同企業の創業者のキャリアに即して、1960~70年代における同事業の誕生や形成、背景要因について論文を執筆した。 「労働市場の創造──1960~70年代における高度ホワイトカラー有料民営職業紹介事業の誕生」(『横浜経営研究』第42巻第3・4号、2022年3月刊行)において、上記について論じたが、結論はつぎのとおりである。 1964年に経営管理者や科学技術者の有料民営職業紹介事業が可能となった時期と重複して、資本の自由化が進められていた。資本の自由化により,外資系企業が日本に進出する際、有能かつ英語が堪能な人材を獲得するためのルートが求められていた。こうしたなか、経営管理者や科学技術者といった,高度ホワイトカラー紹介のニーズが外資系企業からあることが把握され、対象企業は有料民営職業紹介事業を1967年に開始した。 もっとも、初期の高度ホワイトカラー有料民営職業紹介事業の顧客(求人)企業が、外資系に限定されたということではない。ただし、求人企業と求職者の双方から見て、また事業者数から見ても、高度ホワイトカラー有料民営職業紹介事業の市場は、1990年代後半に規制緩和されるまで,かなり小さかったといえる. 本論文で見てきた草分け企業の創業者のキャリアが、当時の高度ホワイトカラー有料民営職業紹介事業の経営トップがたどってきたキャリアを代表するとはいえない。とはいえ、キャリアを通じて海外志向が強く、英語に堪能な人々に対して、資本の自由化が、海外との接点となるような事業の機会を与えたと考えるのは自然であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に刊行した論文は2017年に実施した聞き取り調査に基づくという点では、表面的には進捗が遅いように見える。しかしながら、聞き取り調査の内容を裏付ける資料や、時代的文脈を理解するための先行研究や文献の探索、ならびに収集に相応の時間を要することは、ある程度予想できたことでもあるため、その点においてはおおむね順調に当該研究は進展していると評価される。 聞き取り対象者のキャリアが当該研究対象の範囲に限定されていないため、当該研究対象外の史実や情報を獲得するため、資料や文献を広く探索せざるをえなかった。探索の際にはウェブ検索により調べるとともに、その検索結果を踏まえた申請者の専門分野外の学術文献について、十分に理解する時間が必要とされた。また、関連資料が所蔵されていると考えられる図書館・資料室等で、候補となる資料・文献にひととおり目を通したうえで、それぞれにおいて該当する記述を見つけたうえで、それらを十分に理解するためにも、時間がかかった。 当該研究が歴史的な経緯を明らかにする点を目的としていることに加え、その現代的な意義を説明する必要があり、公開されている政府統計に依拠してその作業をおこなった。政府統計が公開されているものの、各集計表の調査方法やデータ抽出方法を理解し、示されているデータの限界を批判的に検討する必要もあったため、予想外に時間を要した。 以上のような難しさは伴ったものの、本研究はおおむね順調に進展していると評価しても差し支えないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は調査対象となる有料民営職業紹介事業者、ならびに関係諸団体のプロフィールをまとめる作業から着手する。ウェブサイトから得られる情報の整理に加え、過去に刊行された業界紹介の書籍や社史、その他刊行物から得られる情報に基づき、基礎的情報をまとめる。そのうえで、聞き取りの調査項目を洗い出す。関係諸団体を対象とする聞き取り調査に着手したいが、新型コロナウイルス感染症対策を考慮し、オンライン調査も検討する。 2023年度には有料民営職業紹介事業者が、どのように求人企業と求職者をマッチングしているのか、また、その組織的な仕組みについて聞き取り調査に着手する計画である。聞き取り調査を進めながら、質問項目を再検討し、より効率的な調査設計を模索したい。 2024年度以降は、引き続き有料民営職業紹介事業者が、求人企業と求職者をマッチングする組織的な仕組みについて聞き取り調査を実施する。事業者への調査回数を重ねていると見込まれるため、効率的に調査を実施する計画である。 また、同時並行的に、有料民営職業紹介事業者を利用している求人企業が、どのように紹介事業者を活用しているのか、また、ほかの人材紹介サービスとどのように併用・使い分けをしているのかについても、聞き取り調査を進めたい。対象とする求人企業は、調査対象としてきた人材紹介事業者を通じて紹介してもらうことを含め、調査対象へのアクセス方法について検討したい。 可能であれば、求職者を対象とした調査を、聞き取りや質問票を利用したかたちで実施できないか、検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は新型コロナウイルス感染症の流行が沈静化しなかったこともあり、聞き取り調査等の実施が難しい状況である。その代わり、ウェブサイトから得られる情報や、書籍等の資料の収集をおこなっているものの、旅費と比較すると、現状では支出額はかなり抑制されている。 2022年度も新型コロナウイルス感染症の流行の動向について、予断を許さない状況であるものの、オンライン調査の実施を含め、検討したい。オンライン調査の比重が大きい場合は、旅費の支出は引き続き、かなり抑制されることが見込まれる点には、留意が必要である。 また、オンライン会議ソフトの利用など、パソコンの利用状況が新型コロナウイルス感染症の流行以前とは変化している状況を踏まえ、効率的なパソコンの活用を促進するために機器の更新を検討するなどの支出も予想される。
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