研究課題/領域番号 |
21K01924
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
高橋 征仁 山口大学, 人文学部, 教授 (60260676)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 庇護主義 / 自己家畜化 / 神経堤細胞仮説 / 平均顔 / 従順化 / バースコントロール |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、災害や感染症などの緊急事象に関して、専門家や行政に大きく依存する庇護主義(パターナリズム)の脆弱性を明確にするとともに、市民のリテラシーやレジリエンス向上の必要性や有効性を実証的に明らかにする点にある。 2023年度の研究においては、現代日本社会における庇護主義が日本人の自己家畜化によって生じたという仮定の下で、配偶環境の変化(戦時中の出征や戦後のバースコントロール、恋愛結婚の進展)と自己家畜化(衝動性の低下、従順性・依存性の増大、平均顔の変化、暴力犯罪の減少と計画犯罪の増大、緊急避難行動の遅延)の関連ついて、理論的・計量的研究を進めた。その結果、戦後の配偶環境の変化が形態的・生理的・心理的・行動的変化と関連していることが判明した。これらの関連は、Wilkins(2014)らの神経堤細胞仮説に合致していると考えられる。 戦後日本社会における秩序形成は、暴力犯罪の低下にせよ、価値意識の変化にせよ、男性平均顔の変化にせよ、交感神経の制御下にある衝動性が低下し従順性が増大する方向へと変化してきた。このような戦後の変化は、戦後の経済復興や民主主義教育の成果とみなされたり、1960年代の社会運動の挫折の結果と考えられたりしてきた。しかし、それらの従順化を丹念に見てみると、戦中生まれのコーホートとしらけ世代のコーホートで生じていることが明らかとなった。すなわち、衝動性の高い個人が第2次世界大戦での戦死や1950年代の産児制限運動で子どもを持つことがなかったために、遺伝的な意味での従順化が生じたと考えられる。また、従順な男性を求める女性の選り好みは、今日でも広く浸透しており、性選択にもとづくパーソナリティの変化が基盤となり、文化や社会構造の変化が生じてきたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
戦後の日本社会における秩序形成が、遺伝的な意味での日本人の従順化を基盤としているという知見は、これまでの社会科学的知見を大きく覆すものであり、配偶戦略にもとづいて遺伝的(形態的・生理的)変容と社会秩序の変容をとらえ直す新たな視座を提示している。このうち、女性の選り好みと美男子平均顔の時代変化の関連について検討した学会発表は、日本顔学会において表彰を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
戦後の日本社会におけるバースコントロールと衝動性の関連について分析結果を論文化するとともに、広く市民と共有していくことにしたい。そうすることで、現在の庇護主義を批判的に捉え返す契機となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の前半は、家庭の事情により、出張による調査研究を控え、WEB調査に切り替えたため、人件費・謝金が不要になった。 2024年度の研究においては、これらの未使用額を、研究成果を発表するための学会旅費として使用する計画である。
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