研究課題/領域番号 |
21K01925
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
田中 重好 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 特任教授 (50155131)
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研究分担者 |
黒田 達朗 椙山女学園大学, 現代マネジメント学部, 教授 (00183319)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 災害社会学の体系化 / 災害の構築 / 災害の生産 / 東日本大震災 / 災害の比較社会学 |
研究実績の概要 |
本研究は、災害の社会学的理論(「生産と構築」論:後述)を体系化することをベースに、東日本大震災の研究成果を統合し、その全体像を描き出す。この全体像に基づいて「世界のなかの東日本大震災」を論ずることを目指す。 本年度は、災害の構築について、一般に災害観と称されている「構築されたハザード」について、比較文化論、歴史的な観点から論文を作成した。西欧ではハザードは「神によって与えられた宿命」として受け取られ、その災害観に基づいて災害対応がなされてきた。それに対して中国ではハザードは「天によって与えられた災厄」であり、それは天が与える皇帝へのメッセージが込められていると考えられてきた。こうした前近代の災害観は、近代科学の発展とともに、災害の科学的な解釈が進んだ。しかし、科学的な災害観は「なぜ災害が起こるのか」の意味理解には益するものの、人間が「被災にどう耐え、克服するのか」には回答を与えてくれないため、前近代の災害観が科学的な災害観に完全にとってかわったとはいえない。 世界的なコロナの流行とコロナ禍のなかで、東北社会学会から、災害研究の観点からコロナのパンデミックスを論じてほしいという依頼があり、自然災害とパンデミックスの比較検討をおこない、コロナ禍に関する社会学的な研究課題を整理検討する論文を作成した。 発表した論文としては以上の二点であるが、研究全体としては、「災害の生産」と「災害の構築」の二つの観点から、東日本大震災を中心対象として調査研究を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文としては、研究実績の概要で紹介した2点であるが、それ以外に、日本社会学会において、「災害の復興過程は、複数の社会的主体の集合的な選択過程である」という観点から、東日本大震災の復興過程を検討した。その内容を簡単に紹介すると、日本では、複数の社会的主体が復興にかかわるとはいえ、中心は行政機関、特に政府であり、復興事業の実施主体はたしかに地方自治体であるが、その事業全体の財政、事業内容の基本的な方向性は政府によって決められ、自治体は、その政府の用意した財政的な枠組みと復興政策のメニューのなかから選択するしかないのである。こうした主体間の関係構造が、現在の復興のあり方を規定していることを明らかにした。 また現在取り組んでいる研究テーマは、東日本大震災がどう「記憶され」、それが、個人や社会全体の将来の災害対応にどういかされるのかを、「災害の記憶」として研究を進めている。この「災害の記憶」の具体的な内容としては、災害遺構に注目している。総じていえば、「災害の記憶」とは、「災害経験の構築」に他ならない。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、「災害の構築」としては、発災前の「災害観」、発災後の「災害の記憶」について論文を作成した。今後の予定としては、「災害の構築」の系列では、「リスク論」、「復興計画論」を予定している。 一方、「災害の生産」としては、「ハザードの社会による生産や拡大」「社会による脆弱性の生産と、それに対応する防災力の向上」「発災時の対応による被害の抑制と拡大」「復興事業による社会への影響」についての研究を予定している。 以上の「災害の構築」と「災害の復興」の議論を、最終的に統合し、災害社会学の体系として整理する。さらに、その災害社会学のフレームワークに基づいて、東日本大震災の分析を行う、というのが今後の研究の進め方である。東日本大震災に関しては、国際的な比較研究の視点から、その特徴を明らかにする。 東日本大震災の分析、国際比較研究については、日本社会学会の英文誌 Journal of Japanese Sociologyの次号、32号への依頼原稿において発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のなかで、現地調査が一時的に延期せざるを得ない状況が度々発生し、そのため、調査を先送りしてきた。
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