研究課題/領域番号 |
21K01939
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲彦 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20295116)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 逸脱 / 当事者 / 脱逸脱 / 当事者活動 / 薬物使用 / セックスワーク |
研究実績の概要 |
2021年度は本研究課題の初年度として、脱逸脱をめぐる当事者による諸活動を、とくに研究代表者が長く研究してきた薬物使用に関する諸活動と、それと深く関連しているセックス・ワークに関する諸活動について、その概要と現在の論点を明らかにすることを主な目的として研究を行った。当初は外国出張を行い、欧州各国における薬物使用者団体(People Who Use Drugs)やセックスワーカー団体における聞き取りを計画していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって外国出張が不可能となった。 そこで2021年度の中心的な活動は、研究対象をあえて国内に限定し、文献資料等に基づく脱逸脱をめぐる当事者活動に関する考察のほか、これまで当事者活動として位置づけられてこなかった逸脱的諸活動の探索を行った。また、戦後日本の薬物政策とそれに対応する当事者活動に関する論考を国際的出版物に寄稿すること、さらに国内で脱逸脱をめぐる当事者活動を牽引する人たちを交えてオンライン研究会を開催し、現在の制度的・非制度的問題について話し合った。 これらの作業によって、歴史的にまた現在横断的に、脱逸脱をめぐる当事者活動に関する主要な論点を抽出できた。そこで今後は、それらの論点が現代社会においてどのような意味持っているのかを明らかにする必要がある。またそれらの論点との比較を考えながら、次年度に行う外国調査を踏まえて、国際的な脱逸脱をめぐる当事者活動の主要な論点が何であるのかを明らかにする必要があることが示された。とくに新型コロナウイルス感染症の流行により、ポスト・エイズ時代における諸状況と同様に、ヴァルネラブルなカテゴリーの人びとにさまざまな問題が集約されつつある。そこで生じた問題を当事者活動がどのように対処しているのかについて記述することを通して、この研究の社会学的な意味をより明確に示すことが出来ると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、欧州各国を中心とする外国出張に基づく調査が新型コロナウイルス感染症の流行によって不可能となり、オンライン調査に切り替えるよう連絡を行ったが、対象となる欧州の組織の多くが事実上活動を休止していたため、研究計画を変更して国内における調査研究を中心にした。しかしむしろそうすることで、2年目以降に調査を行って国際的な調査結果と比較する予定にしていた、国内における脱逸脱をめぐる当事者活動の主な論点を、先に明らかにすることが出来た。この研究計画の変更により、本研究課題にとっていくつかの重要な示唆を得るなど、むしろ大きな成果につながったといえる。そしてその作業により、国内における当事者活動の論点と対照すべき、国際的な脱逸脱をめぐる当事者活動の調査における論点を仮説的に抽出することとなった。脱逸脱活動は本研究が新たに名づけ、新たに用いている諸活動のカテゴリーであるので、国内的にそれが示す共通の問題関心や共通の活動を先に記述することで、むしろ今回の調査研究全体のデザインがより明確になり、また分析的帰納の観点からも仮説がより洗練されたと考えられる。 次年度以降の外国出張を中心とした調査環境についてはいまだ不確定要素が大きいが、上記の作業によって、短期の出張でも検討すべき課題が抽出可能となったといえる。とはいえ、新たな研究スケジュールとなったので、いまだ少し調査デザインの見直しが必要であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ウクライナ戦争が開始されたため、欧州各国における脱逸脱をめぐる当事者活動が、ウクライナにおける同様の活動の支援を行うなど、これまでとは少々異なった状況を呈している。しかし同時に現状では、新型コロナウイルス感染症の問題がある程度落ち着いたものと受け止められており、各地で人的交流が再開している。そこで今後は、初年度に計画していた欧州各国における脱逸脱をめぐる当事者活動の調査研究と、次年度に計画していた脱逸脱をめぐる当事者活動の国際的ネットワークの調査研究を再開することで、初年度に行った国内における脱逸脱をめぐる当事者活動の調査研究で抽出した論点が、国際的な文脈でどのような意味をもつものであるのかを議論することが中心的な課題となる。また同時に、国際的な文脈における現在の当事者活動の最も重要な論点が何であるのかを調査で明らかにする必要もある。併せて、初年度にリストアップした、これまでその社会的意味が注目されてこなかった、脱逸脱をめぐる当事者活動の当事者に調査を行い、脱逸脱をめぐる当事者活動の社会学的研究が、逸脱論の再構成において中心的な意味をもつこと、さらにそれが現在の当事者活動において重要な意義をもつことが議論可能になると考えられる。 また、これらを推進するに際しては、とくにウクライナ戦争に伴って生じつつある、当事者活動の国際的ネットワークの重要性に着目する必要があるだろう。さらに、新型コロナウイルス感染症の再流行に備えて、オンラインによるインタビューなどを十分に活用できるように、あらためて調査予定先と打合せをする必要がある。この研究領域は、従来は逸脱とされてきた諸活動に関するものであるだけに、オープンな環境での調査が難しい場合もあるので、そのときの代替手段についても打合せをする必要があると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今回のこの金額は誤差の範囲内であるといえるが、これが生じた背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、初年度に予定していた外国出張による調査が事実上不可能であったこと、またその状況下において調査対象の組織の活動が状況に合わせて縮小され、オンライン調査が困難であったことなどが挙げられる。そこで初年度に計画していた外国出張による調査計画を変更し、次年度以降に行う予定であった国内における脱逸脱をめぐる当事者活動の調査研究と、比較考察のためにその一部を最終年度に計画していた、これまで注目されてこなかった脱逸脱をめぐる当事者活動の探索を行うことで、研究を遂行した。この計画変更自体は、上で述べたようにむしろ良い結果を生んだが、そこで予算の一部の残ることになった。ただしそこで生じた残額は、次年度に行う予定の外国出張による調査に使用する計画である。
|