2023年度は2022年度までの調査結果を踏まえて考察を行うことが主な課題であったが、2022年度に引き続いて各地でコロナ禍が明けたことから、それと同時にコロナ禍によって中断されていた研究者や実践家の交流再開の機会に参加し、コロナ禍によってこうむった当事者活動について、さまざまな情報を集めることも課題であった。そこで、まずは2023年4月にオーストラリアにおいて、従来よりも間隔を空けて開催されたハーム・リダクションの国際大会に参加し、コロナ禍以降久しぶりにインタビュー対象でありさまざまな情報を供与してくれる当事者や実践家らに再会して、コロナ禍の最中における活動や組織の変化などについて聞き取りを行った。コロナ禍の最中もWebinarなどの活用により、幾つかの国際NGOはその時点の支援状況や支援をめぐる課題などについて報告を行っていたが、実際に当事者や支援者に会ってみると、それらのオンラインでは報告されなかった事態や、そもそもオンライン環境の不十分さによって伝えることの出来なかった困難などに気づかされた。とくに国際専門誌ではPWUDの連帯が提唱され実践されているとも論じられていたが、必ずしもそれが現状を反映しているわけではないことも判明した。2023年度の調査は以上で終了し、残りの期間はこれまで収集してきた薬物使用者とセックス・ワーカーをめぐる資料及びデータから理論的考察を行った。とくに、ポスト・エイズ時代という時代状況を文脈として展開する脱逸脱をめぐる当事者活動の変化について見直し、それを通した逸脱研究の可能性について検討するとともに、それらが国家を横断して展開する現状とその展望、さらに補助的に機能すると考えられる枠組みについて検討した。
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