研究課題/領域番号 |
21K01952
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
林 美枝子 日本医療大学, 総合福祉学部, 教授 (40295928)
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研究分担者 |
吉川 直人 京都女子大学, 家政学部, 助教 (70796010)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 看取りのドゥーラ / 一般地域住民 / 死生観調査 / 地域格差 / デスカフェ / 臨老式死生観尺度 |
研究実績の概要 |
今年度の研究計画における主たる研究内容は死生観の意識調査(研究代表者が札幌で実施、研究分担者が京都で実施)を終了し、年度末にかけて結果のデータ分析を実施した。同時に代表者は看取りのドゥーラに関するテキストの翻訳と出版の作業を、分担者は次年度から実施の研究用デスカフェのプログラムを検討するための情報収集とその成果物の作成に各々従事し、概ね予定通りに進んでいるが、若干の遅れも発生している。死生観調査はリモート会議で対象者の抽出方法、調査票の作成、配布・回収のやり方を検討した。各大学まで歩いて30分距離の地域包括ケアシステムの範囲内に居住する住民を選挙管理委員会の名簿から自治体の正式な許可を受けて無作為抽出をし、調査票は近親者との死別の有無や過去の死生学の学習経験、臨老式死生観尺度などをその項目とした。抽出した20代から70代の対象者、札幌487人、京都508人に調査票を送付した。返送率は全体で22.12%(213件)であった。2地域の比較分析の結果、「死について誰とも話したことがない」率、「死生学に関連したことの学びの経験」の率で、京都は有意に高い結果となった。結果を踏まえデスカフェのプログラムを検討中である。研究代表者は看取りのドゥーラの日本への導入課題を探る場とする研究用デスカフェのプログラム用のテキストの翻訳・出版の作業に主に取り組んだ。対象は看取りのドゥーラプログラムを創設したヘンリー・フェレスコ=ワイスの本である。しかし、翻訳出版権の取得、下訳からの監訳、解説原稿の作成作業を年度内で終了することができなかった。 研究分担者は日本のデスカフェの現状把握と既存のデスカフェで利用されている各種ツールの調査を実施し、内容を論文にまとめた。また科研費とは別に所属大学の助成金を受けてデスカフェガイドブックを発刊、研究代表者は本研究内容である看取りのドゥーラについて寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
札幌と京都における地域住民を対象とした死生観調査は順調に実施することができた。しかし最初の返送率が、一般の地域住民を対象とした無作為抽出調査に予想されるよりも低い返送率であったため、再度予算内で実施できるリマインダーのはがきを全員に送付した。そのためデータ入力の作業が予定よりも1ヶ月程度遅れた。入力作業を終え、現在目的変数を地域に設定して分析を実施してプログラムの内容を検討しているが、別の変数でのデータ解析や自由回答のテキスト分析などはまだ実施していない。これらの分析は次年度に取り組まれることとなった。看取りのドゥーラに関するテキストブックは予定していた版ではなく、コロナ禍の中で出版が遅れた新版のFinding Peace at the End of Life: A Death Doula's Guide for Families and Caregiversの出版となり、明石書店による翻訳出版権の獲得と出版が決まった。下訳と監訳、解説文の作成を鋭意進めてきたが、日本人読者への著者からの挨拶文を依頼することが出来たのは3月中旬となり、原稿の入稿が間に合わなかった。一方、研究用デスカフェに関しては分担者による準備は順調に進んでいる。また死生観調査に関する研究倫理の申請は、研究代表者の大学に行ったが、承認を得たのが8月末であったため、国政選挙の直前の時期で、更新前の選挙人名簿を無作為抽出したことで、宛先不明の調査票が両地域ともに少なからず発生し、返送率も予想を若干下回ったため、はがきでの再依頼が必要となってしまった。そのため最終的なデータの収集、分析も遅くなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究予定の主なものは、死生観の地域比較調査から得られた成果の公表とその学会誌への論文の投稿である。具体的には死の臨床研究会と介護福祉学会等で研究発表を行い、参加者からの助言等を活かして論文化することを目指している。統計分析の結果から一般の地域住民の死生観の地域差を考察した結果は研究代表者が、自由記述のテキスト分析の結果は研究分担者が主となってその成果物をまとめる予定である。 看取りのドゥーラに関するテキストは、既に原稿を明石書店に入稿しているため、今後、編集、校正作業を経て出版となる。このテキストを活用し、得られた調査データと分担者の前年度のデスカフェ関連の調査結果から、今年度の第1回目の研究用デスカフェのプログラム内容を考案する。研究協力者は既に前年度の死生観調査で募集を終了し、札幌・京都の各20名、合わせて40名での実施となる。対面、あるいはリモート会議で、実施日程やプログラムの詳細、調査データの収集方法、そのための調査票の作成を検討する。実施内容の決定後、各所属大学で、今年度と来年度4回のデスカフェの実施に関する研究申請を提出する。それぞれ研究倫理委員会の承認を得、研究代表者、分担者がそれぞれファシリテーターとなって実施する。また互いのデスカフェには、対面かリモートで研究代表者と分担者も参加するように努める。 本研究の目的は住民参加による日本型看取りのドゥーラ導入の課題と臨死期ケアの変容についてを考察することであるため、研究デスカフェの実施に当たってはテキストから得られる看取りのドゥーラに関する説明と理解を求め、看取り期における死の受容を中心にカジュアルに死を語る場を研究協力者たちには毎回経験してもらう。得られたデータを分析して、看取りのドゥーラの導入に関する課題を明らかにするとともに、次年度のデスカフェのプログラムの修正案を検討する。
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