本研究は、障がい者との接触が健常者の労働生産性ないし業務パフォーマンスを改善するメカニズムを解明することを目的としていた。2022年までの研究で、雇用された障がい者が職場にいることによって職場の心理的安全性が高まり、リスクマネジメントやイノベーションにつながる発言が促されることに加え、会社の求心力と健常者社員の仕事に対するモチベーションが上がることによって業務パフォーマンスにつながることが明らかとなった。 しかし、施設外就労の障がい者については、心理的安全性創出効果が極めて低いことが明らかとなった。施設外就労の場合、支援員が同行することに加え、ラインを丸ごと請け負うなどひとまとまりの業務を担うことから、施設外就労先社員の障がい者との接触が希薄であすることが原因と考えられる。したがって、施設外就労は、企業にとって、機会損失の軽減といった効果以外に期待できない可能性が高く、費用対効果が見込めなければ継続が難しくなる可能性がある。 2023年度は、その問題を回避する方策と障がい者から見た施設外就労の意味の2点について明らかにするために、インタビュー調査を行った。前者については、同じフロアで健常者社員と施設外就労障がい者が川上と川下といったつながりのある仕事をし、打ち合わせなどを行うことによって深い接触を設定できることが判明した。 他方、後者については、支援員を介して障がい者の意見を訊くとともに、支援員にもインタビューを行った。その結果、マッチングや体調管理が重要な精神障がい者にとって、支援員が同行するため精神的に不安定になっても対応してもらえること、マッチングを確認することができること、工賃の大幅アップが見込めること、したがって、働く意欲にもつながることが明らかとなった。
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