研究課題/領域番号 |
21K01996
|
研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
黒田 文 東北福祉大学, 総合福祉学部, 教授 (60368412)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 当事者の知 / 生きられた経験 / 知-権力 / 専門知 / エンパワメント / グループ |
研究実績の概要 |
2022年度は、学会発表を2回、国内研究集会を1回実施している。以下、成果発表の内容を報告する。 本研究では、パワーを関係性で生じる現象と捉えた上で(Solomon 1976, Foucault 1975)、精神的困難を抱え社会サービスを利用する当事者の知を専門援助職者がその関係性において承認することがエンパワメントなりうることを考察した。 精神的困難を抱えて社会サービスを利用する当事者は、その困難ゆえに社会的抑圧に晒されることが多い。社会的抑圧にはその人のパワーを封鎖する何らかの強い作用があり、社会環境が非友好的に機能している。サービス利用当事者は、医学的な処遇を受けている期間が長いほど、抑圧のなかで従来のアイデンティティを薄れさせていく傾向が強く、治療を受ける患者アイデンティティを強めていく。その中でも当事者は、自分たちの生きられた経験にもとづく当事者の知を育んできた。この当事者の知に対し、専門援助職者の側が、自らの専門性に基づく科学的言説に依拠して当事者の知が科学的ではないことを理由に承認しないのであれば、当事者の語りや生きづらさそのものは科学的言説に囲い込まれ、行き場を失うことになる。一方、当事者への理解や互いの学びを目的としたグループ(必ずしも当事者だけで編成されていなくてもよい)の場合、当事者の語りは科学的言説に縛られることなく、その縛りからの解放をも支えており、当事者が自分の生きる意味を見出そうとする生の過程へのコミットメントに貢献していることが示された。普段、グループ以外の場所では語らずに不確かになっている自己(の部分)が、グループできき届けてくれるメンバーの存在によって、語りは自己の確かな輪郭へと繋がり、浮き上がっている。 当事者の知と専門援助職者の専門知の共存が求められており、そこにエンパワメントグループの活用可能性が示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウィルス感染状況から実践にもとづいた十分なデータが得られない状況が続いたため、本研究は当初計画した実践ではなく文献研究を中心にした内容へ早期にシフトさせている。この変更の決断が早かったため、2022年度は、研究内容の建て直しによって、2度の研究成果発表、ならびに、国内研究集会を1度実施することができた。このまま文献研究を主軸にして研究の深化をはかる一方、実施が可能になったインタビューについては積極的にききとりデータの収集を行い、本研究の計画延長を勘案しながら、分析結果を公表するための進め方を検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
上述した学会発表の内容を学術論文として公表すると同時に、当事者の知に関する文献渉猟によって深化させた知の潮流と分類について学会発表を行う。同時に、2023年度はインタビュー調査によるデータの蓄積に力を入れ、その分析結果を公表できるよう進める。実施について年度がずれ込みそうな場合は研究期間の延長を申請する計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度にインタビュー調査の旅費を計上していたが不実施であったため助成金に余剰が生じた。余剰分は2023年度に計上し、インタビュー調査を実施する際の旅費として活用する。
|