研究課題/領域番号 |
21K01999
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
陳 麗ティン 目白大学, 人間学部, 准教授 (20649545)
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研究分担者 |
田中 敦士 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (40347125)
星野 晴彦 文教大学, 人間科学部, 教授 (70453438)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カルチュラルコンピテンス / ソーシャルワーク / ジレンマ / 多様性の尊重 / 危害を加えない / グローバル定義 |
研究実績の概要 |
カルチュラル・コンピテンスの概念が普及していく中で、あたかもそれが多文化共生のための万能薬のように認識されているきらいがある。実践理念は明示されても、それが外国籍家族支援の前線にいるソーシャルワーカーたちに、いかに理解され、また実践されているのかに着目した研究は少なく、ソーシャルワーカーたちが抱えるジレンマに必ずしも十分に注目してこなかったといえる。例えば、ソーシャルワークのグローバル定義の注釈(IFSW 2014)にはソーシャルワークのジレンマに対する言及があるものの、それに関する議論は乏しい。申請時の予定では、日本と台湾の多文化共生ソーシャルワークの前線のワーカーたちに下記の通りインタビューする予定であった。しかし、コロナ禍にあり、インタビューの設定がうまくいかなかったこともあり、方向転換し、先行研究をレビューすることに務めた。その結果、国際学会であるアジアヒューマンサービス学会の学会誌に投稿し、研究代表者と研究分担者で執筆したものが採択された。タイトルは「カルチュラル・コンピテンスのジレンマに関する検討~ソーシャルワークのカルチュラルコンピテンスの再検討」であった。そこでは、ソーシャルワークにおけるカルチュラル・コンピテンスのジレンマとして、次の5つの視点があることを明らかにした。 ①カルチュラル・コンピテンスが、他文化の理解という次元で普及していることと、主流文化の抑圧の構造を深く認識することが一致していないこと。②「危害を加えないこと」と「多様性の尊重」が対立し、競合する③異なる文化に対して価値と信念の葛藤(実践者の譲れない基準の存在)④ソーシャルワーカーの価値観の土台を揺るがすこと⑤組織としてカルチュラル・コンピテンスを展開するために、組織内で理解してくれる人材を確保して、発言権を高めるためのコンフリクトを含む動態的側面。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来的には申請時には下記の研究計画を設定していた。しかしコロナ禍に合ってインタビューの設定が予定通り進まなかった。よって上記のとおり研究計画の方針変更を行った。 要は先行研究をレビューし、理論研究を図るというものである。またアジアヒューマンサービス学会下関大会で下記の報告を行った。これは新聞記事を内容分析するという手法によるものである。「コロナ禍における日本在住のネパール人の生活に関する研究~新型コロナパンデミックにおける生活に着目して」であった。 2021年4月-8月:台湾(台北)において外国籍家族を支援するソーシャルワーカー15人を対象に半構造化面接によるインタビュー調査を実施する。本研究の課題に関する先行研究の量的・質的調査票がない。そこで、理論仮説がない状況で理論形成をするためにインタビュー結果を佐藤郁哉の事例―コードマトリックス(佐藤 2008)で分析する(分析方法は以下同様)。インタビューガイドは、①ジレンマの状況の認識、②ジレンマへの挑戦、③ジレンマの挑戦の成果と課題、④挑戦の成果と課題への振り返りに関して、自由に語れるように作成している(2020年度プリテスト実施)。
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今後の研究の推進方策 |
本来的には、3国の調査比較を通して、実践者のカルチュラル・コンピテンスのジレンマを克服するためプロセスを明らかにすることを目指している。それに取り組めるように努めていきたい。その上でカルチュラル・コンピテンス概念の再構築を図りたい。 カルチュラル・コンピテンスの概念がNASWなどによって提示され、理念的には普及しているものの、実践の中で、個人の権利と文化が葛藤する場合があり、そこでソーシャルワーカーはジレンマに陥ることがある。本研究では、ソーシャルワークの実践からジレンマを抽出し、カルチュラル・コンピテンス概念の再構成を図る。再構成を図る研究は欧米でも着手されたばかりの段階であり、日本では未開拓の課題である。
特に2022年度は下記に記載した通りの事項に取り組みたい。下記の計画が一年ずつ遅れている。3国の調査比較を通して、実践者のカルチュラル・コンピテンスのジレンマを克服するためプロセスを明らかにするように努めていきたい。
2021年4月-8月:台湾(台北)において外国籍家族を支援するソーシャルワーカー15人を対象に半構造化面接によるインタビュー調査を実施する。本研究の課題に関する先行研究の量的・質的調査票がない。そこで、理論仮説がない状況で理論形成をするためにインタビュー結果を佐藤郁哉の事例―コードマトリックス(佐藤 2008)で分析する(分析方法は以下同様)。インタビューガイドは、①ジレンマの状況の認識、②ジレンマへの挑戦、③ジレンマの挑戦の成果と課題、④挑戦の成果と課題への振り返りに関して、自由に語れるように作成している(2020年度プリテスト実施)。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた日本と台湾のソーシャルワーカーに対するインタビューがコロナによりできなかったことが理由である。次年度はこの遅れを取り戻すために日本と台湾のソーシャルワーカーに対するインタビューを実施して、当初の計画に軌道を戻していく予定である。
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