研究課題/領域番号 |
21K02031
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研究機関 | 女子栄養大学 |
研究代表者 |
深田 耕一郎 女子栄養大学, 栄養学部, 准教授 (40709474)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自立援助ホーム / 社会的養護経験者 / ケアリーバー / 家庭的養育 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会的養護経験者(ケアリーバー)といわれる、児童養護施設等を措置解除となった後に、大学・専門学校等に進学する若者への進学保障・生活支援のあり方を、自立援助ホーム等への実態調査にもとづいて、考究するものである。 2021年度は、施設退所後に大学等へ進学した社会的養護経験者への生活支援の実際を取り上げ、望ましい退所者支援のあり方を検討した。とりわけ、近年の社会的養護の分野で中心的な概念とされる「家庭的養育」の妥当性を検証するという観点から、退所者支援における「家庭的なもの」の意味と機能を考察した。 というのも、社会的養護経験者にとって、「家庭的な」環境や関係性が一定程度、重要な意味を持つ一方、家庭における困難・葛藤から退避して施設入所等に至った経緯があるため、一概に家庭の「良さ」のみを強調する実践が適切だとはいえない現実があるからである。家庭的なものの何が正の機能(順機能)を持ち、何が負の機能(逆機能)を持つのかを明確に区別し、それを認識する必要がある。 こうした関心のもと、社会的養護経験者への支援の実際から見えてきた現実は、若者一人ひとりを「個人」として位置づけ、ひとりの個人として理解し対話し尊重する姿勢の重要性である。とりわけ、社会に出る一歩手前の場所で、個人として尊重される経験は、若者が自尊感情を回復させる助けとなり、社会に巣立つ基盤を育てることがわかった。家庭と社会の「あいだ」において、若者が自己を見つめ安息できる環境と周囲の支援者のかかわりの重要性が明らかになった。 以上の検討は、家族問題研究学会が発行する『家族研究年報』(46号、19-31頁、2021年)に「『家庭』との距離のなかで――大学等に進学する社会的養護経験者への生活支援の取り組みから」と題して発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、社会的養護経験者(ケアリーバー)のアフターケアに関する文献の検討、ケアリーバー支援の実態調査、本研究と同様の関心を有する他の調査研究の知見との比較参照を行うなどを総合的に進めた。文献の検討においては、当事者の語り、支援者の語り、若者支援の理論研究などを精読し、認識枠組みの精緻化に努めた。 実態調査においては、大学・専門学校等に進学するケアリーバーへの生活支援活動を対象にして、研究論文を作成・発表した。この経験的な実証調査から、ケアリーバーと呼ばれる若者たちの行動特性をつかみ、指摘した。たとえば、学業とアルバイトの両立困難さや、心身の健康を保持することの難しさ、青年期特有の葛藤などを抱えており、継続的な支援者の伴走が必要であることが認識された。 また、2021年度は、ケアリーバーに関する全国調査が、厚生労働省の有識者会議を中心に実施され、ケアリーバーが置かれている社会的・経済的な実態が明らかになった。こうした全国調査が示している現実を検討しながら、本研究が取り組むべき課題をより明確化させた。今後は、これらの既存調査を踏まえ、自立援助ホームに関する調査を本格化させて行きたい。以上のように、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降は、昨年度に引き続き、文献の精読を通して、社会的養護経験者へのアフターケアに関する理論的な検討を行うとともに、経験的な調査を継続させ、ケアリーバーが置かれた現実の把握に努めて行きたい。とりわけ、自立援助ホームへの訪問調査を行い、自立援助ホーム職員へのインタビューを本格化させる。あわせて、自立援助ホームの利用者および、施設退所後に大学・専門学校等に進学した若者へのインタビューを実施する。 こうした調査から、進学を志すケアリーバーへの支援において、いかなる要件が求められているかを検討する。また、本人にとっての就学経験が持つ意味やその変容過程を理解・考察したい。その検討を通して「就学型自立援助ホーム」は固有に何が必要となるかを考える。 なお、2022年度は、自立援助ホームへの調査結果を報告書にまとめ、学会発表を行う予定である。発表では、自立援助ホームの現状を正確に把握し、その現代的な特性を指摘する。同じく積極的に他の研究者と意見交換を行い、望ましい支援のあり方を検討して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に本格的な調査を計画しているため、その費用を確保することを目的として、次年度に使用することとしている。
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