研究課題/領域番号 |
21K02033
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
土屋 典子 立正大学, 社会福祉学部, 准教授 (60523131)
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研究分担者 |
松本 葉子 田園調布学園大学, 人間福祉学部, 准教授 (20586408)
長沼 葉月 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (90423821)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高齢者介護施設 / 高齢者虐待予防 / ロアー・マネジメント / 研修プログラム開発 / 心理的安全性 / ちょこっとカンファ / 解決志向アプローチ |
研究実績の概要 |
高齢者介護施設における虐待予防のためには、組織マネジメントが不可欠であり、現場監督者によるロアー・マネジメントが重要である。本研究の目的は、高齢者介護施設における現場リーダーのロアー・マネジメントに着目し、組織内に「心理的安全性」を担保するための「対話型コミュニケーション」技法と職員の仕事の質を高めるための「対話型ケースカンファレンス」技法を構築し、「対話型ロアー・マネジメントモデル」を開発することである。ところで、高齢者介護施設における虐待発生要因としては、「虐待を助長する組織風土」や「組織の管理体制の課題」が増加傾向にある。この理由としては、慢性的な人材不足による職員の疲弊と、労働市場の変化により短時間型雇用による職員や外国人労働者を含む多様な労働力の雇用により職場における勤務体制の編成が大きく変化し、職員間の対話が失われ、人間関係の希薄化が進んでいることがあげられる。そこで、令和3年度においては、研究実施計画に従って、Ⅰについて研究を進めた。また、令和4年度実施予定のⅡについても前倒しで取り組むこととした。 Ⅰ先行研究レビュー 社会福祉施設における職場環境・労働環境について、主要な調査報告データをもとに現状と課題について分析を行った。また、対話型組織開発、解決志向アプローチ等の文献研究を行い、高齢者介護施設におけるロアー・マネジメントに有益な理論の検討を行った。その結果、人材育成、サービス管理、情報管理、それぞれのマネジメント要素において解決志向アプローチ等の理論が有効であることが示唆された。 Ⅱ対話型ケースカンファレンスの方法についての検討 解決志向アプローチを援用して、高齢者介護施設における、「対話型ケースカンファレンスの方法」を開発した。複数の自治体、および高齢者介護施設で予備的研修を実施しアンケート調査を行ったところ、本カンファレンスの有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究実施計画に従って、Ⅰについて研究を進めた。また、令和4年度実施予定のⅡ「対話型ケースカンファレンス方法についての検討」も前倒しで実施した。 Ⅰ先行研究レビュー ①社会福祉施設における職場環境・労働環境について、主要な調査報告データをもとに現状と課題について分析を行った。また、②対話型組織開発、リフレくティングプロセス、解決志向アプローチ等の文献研究を行い、高齢者介護施設におけるフロアリーダーのロアー・マネジメントに有益な理論の検討を行った。その結果、高齢者介護施設におけるロアー・マネジメントにおいては、人材育成、サービス管理、情報管理、それぞれの場面で解決志向アプローチ等の理論が有効であることが示唆された。 Ⅱ対話型ケースカンファレンスの方法についての検討 解決志向アプローチを援用して、高齢者介護施設における、虐待事例、利用者による暴力・ハラスメント事例への対応を検討するための「対話型ケースカンファレンスの方法」を開発した。このカンファレンスは「ちょこっとカンファ」と名付けた。本カンファレンスの特徴は、高齢者介護施設の職員のストレングスに着目しながら、職員相互の対話を促進しながら課題の解決を目指すことである。複数の自治体、および高齢者介護施設において本カンファレンスの活用方法についての講義とカンファレンスの体験のための研修を予備的に実施したところ、アンケート調査において高い評価を得た。このことから、多忙な現場においては、ソーシャルワークの理論に基づきつつ、短時間で実施できるカンファレンス方法へのニーズがあることが改めて確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、研究実施計画に従い順次研究を進めていきたい。 Ⅰ社会福祉施設における職場環境・労働環境の推移と施策的対応への考察(2022年4月から2023年3月):社会福祉施設における職場環境・労働環境の推移、施策的対応について歴史的変遷を含め整理し、高齢者介護施設の抱える人的資源、マネジメントの複雑化に伴う課題を構造的に明らかにする。 Ⅱ「対話型ケースカンファレンスの方法」の構築(2022年4月から2023年3月):「ちょこっとカンファ」の枠組みを精緻化し、「対話型ケースカンファレンスの方法」の研修プログラムを開発する。開発したプログラムをもとに2022年9月に研修を実施し、研修事前事後アンケートの分析をもとに、研修プログラム評価を行い、有効性を実証する。数か所の自治体において研修を重ね、現場からのフィードバックをもとにプログラムの修正を重ねる。 Ⅲ「対話型コミュニケーション技法」の構築(2023年4月から2024年3月):Ⅱの研究内容、解決志向アプローチ等の先行研究のレビューから「対話型コミュニケーション技法」を構築する。 Ⅳ「対話型ロアー・マネジメントモデル」の構築(2024年4月から2025年3月):「対話型ケースカンファレンスの方法」「対話型コミュニケーション技法」のそれぞれから「対話型ロアー・マネジメントモデル」を構築する。 尚、2023年4月より研究代表者がサバティカルを取得し海外研修に参加予定である。その間の研究推進が困難となる場合には、改めて所定の手続きにて対応を行うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として262313円が計上されることとなった。 この理由としては、当初予定していた高齢者介護施設へのヒアリング調査がコロナウイルスによる高齢者施設の面会制限等の措置のため、実施することが困難であったことが大きい。このため、予定していたヒアリング調査謝金、並びに調査実施施設への交通費についてそれぞれ執行することがかなわなかった。しかし一部の調査については、倫理的配慮を行ったうえでオンラインにて実施が可能となり、研究計画全体としては、大きな後れをとることはなかったことは幸いである。 また、同様に予定していた研修の実施がオンラインとなり、それに伴い必要な備品に変更が生じた。このことにより、物品費の執行が予定よりも低くなっている。 これらについては、2022年度の助成金と合算し、2022年度予定されているヒアリング調査謝金、オンライン研修実施、研修実施に必要な物品等購入に充てていく予定である。
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