研究課題
超高齢社会であるわが国において、健康寿命の延伸は喫緊の課題の1つであり、生涯にわたる予防・健康づくりの推進が重要である。健康寿命の延伸や介護予防の阻害因子として、生活習慣病やロコモティブ・シンドローム(ロコモ)、認知症等のフレイル対策が重要だが、保健行政など実施主体が別であり、一次・二次・三次予防の観点から途切れない取り組みを実践するための連携体制の構築が課題である。久留米大学は、2019年11月12日に佐賀県基山町と健康・福祉推進、産業振興、教育など包括的連携協定を締結した。その1つに基山町が抱える糖尿病、慢性腎臓病と、透析患者の増加、高齢化率の進展と独居高齢者の増加に対応すべく、健康増進計画に着手した。我々は、特定健診、後期高齢者健診、KDBシステムによる医療・介護情報のcsv突合データを重症化予測AIを用いて、ICD-10分類により各疾病ごと(特に糖尿病、高血圧、慢性腎臓病等の生活習慣病)に分類し、4段階のリスク評価分けを行い、データヘルス計画の作成に活用するとともに、個人毎のデータの見える化を図り、自身への健康への気づきや、行動変容につなげ、さらに個人のリスクに応じた支援体制の構築を目的とした取り組みを開始した。本研究では特に65歳以上の高齢者を対象としている。高齢者においては、ロコモやうつ、もの忘れなどフレイルチェックは重要であるが、自治体等でも十分に実践できているとは言えない。さらに認知症は、予防や早期発見、早期対応が重要であるが、様々な理由から、早期受診に至りにくく、受診時にはかなり重症度が高いことも少なくない。これらを解決すべく、地域で介護予防検診を行い、上記の突合データとのデータを一元化し、生活習慣病等の疾病予防と生活機能低下・フレイルを含む 介護予防のサービスが一体的に受けられるようなモデル創設を目的とした研究を令和3年度より行っている。
2: おおむね順調に進展している
基山町における突合csvデータの解析は、基山町により匿名化されたデータとして、2020年度からは特定健診と後期高齢者データとの一元的な管理も可能となってきており、既に2020年度(令和2年度)以降のデータ解析を行っている。個人および地域の健康状態のデータ分析を行うことにより、各個人の健康リスク、地域の健康課題を把握して、データを見える化し、健診受診率の向上、生活習慣病予防、重症化予防などの優先すべき課題を明確にし、取り組むべき課題目標を設定する。また、突合データと介護予防健診として、認知機能、運動機能、高齢者総合機能評価、睡眠評価などからなる包括的な検査体制を整え、突合csvデータとの一元化を図っている。介護予防健診を地域で普及していくためにも、基山町で毎年開催されているのイベント会場において、令和3~5年度介護予防健診の体験会も行った。2021年度からの介護予防検診については、対象者を70歳および75歳の人口約500名の高齢者としており、その内容としては、高齢者総合機能評価としての基本チェックリスト、ロコモ25、EQ-5D(QoL)、アテネ不眠尺度や、スクリーニングとしての認知機能検査としてHDS-R及びMMSE、運動機能評価としてロコモ度テスト(立ち上がりテスト、2ステップテスト)、CS-5、歩行速度(最速、通常)、握力、そして血圧や身長・体重含めたInbody計測、骨密度、オージオメトリーを用 いた『聴こえのチェック』を本研究開始時より実施している。介護予防検診については、2021年度対象者540名に対し受診者213名(参加率39.4%)、2022年度対象者583名に対し、受診者252名(参加率43.2%)、2023年度対象者602名に対して、参加者140名(参加率23%)であった。今後参加率向上に向けた取り組みが必要であるが、概ね予定通りに進行している。
突合csvデータによる重症化予測AI評価システムと今回新たに実施する介護予防健診により、これらのデータを個人ごとに見える化し、フィードバックするとともに、個人のリスク段階に応じた、受診勧奨や、保健指導、重症化予防対策につなげる。介護予防健診のデータと突合csvデータを一元的管理により、個人ごとのリスク評価と、地域全体の健康課題について検討し、新たな健康増進(データヘルス)計画の策定につなげられる取り組みにしていく。介護予防健診から得られた結果からは、運動機能については、久留米大学 医学部医学科内科学講座川口巧教授、医学部医学科整形外科学講座 橋田竜騎講師によって開発された運動プログラム『肝炎体操』を状態に応じた内容でのQRコードとYouTube動画でつなげて取り組めるようにしたり、紙ベースでも体力・筋力の維持向上につなげている。認知機能なども今後リスクに応じて既存の介護予防事業や高齢者の集いの場でも様々な健康につながる仕組みとつなげていく。さらには突合csvと介護予防健診の結果を一元化することで、生活習慣病と運動機能、将来的には生活習慣病と認知症などとの関連性について前向きコホート研究として実践できるような取り組みにしていく。
研究遂行の基本的準備(測定機器野選択・納入)及びそれを用いたデータの収集に手間取り、研究成果発表に結びつけるのに時間を要してしまった。今度さらに積極的に発表していき、論文投稿料、学会発表などの旅費が増える予定である。
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Psychogeriatrics
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