研究課題/領域番号 |
21K02079
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
横山 嘉子 聖徳大学, 人間栄養学部, 准教授 (40202395)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | パルミチン酸 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
血中のパルミチン酸がLPSの作用を増強するとの報告がなされている。本研究では炎症性サイトカインの発現に対するパルミチン酸などの脂肪酸と歯周病菌LPSとの相乗作用の機構について、受容体及びコファクターを中心に解析を進めることを目的としている。パルミチン酸の炎症亢進作用については、いくつかの機構が考えられるが、その一つとしてTLR4を介する信号伝達回路上での生体内外の物質の炎症低下作用を抑制することが考えられる。このような働きを持つ物質として乳癌の治療に用いられているタモキシフェンが報告されている(Xuebo Sun et.al. J.Neuroinflammation 2013 , Narae Hwang and Su Wol Chung BMB Rep 2020 53, 284-289)。今回の実験ではタモキシフェンの抗炎症作用に対してパルミチン酸がどのような働きをするのかを検証した。タモキシフェンが抗炎症作用を発現する濃度は実際に治療に用いられる際の血中濃度に近い濃度である。この濃度は細胞にエストロゲン受容体非依存性のアポトーシスを起こす濃度であり、細胞はカスパーゼ3が誘導されて死に至る。研究代表者は、この時パルミチン酸が併存すると細胞はアポトーシスを起こさないことを見出した。この機構を詳しく解析すると、タモキシフェンはミトコンドリア呼吸系酵素複合体IとIIを阻害し活性酸素を産生しカスパーゼカスケードを駆動しアポトーシスを起こすが、パルミチン酸がタモキシフェンの作用を阻害していると考えられる(第77回日本栄養食糧学会で発表)。生体内外の抗炎症性物質に対するパルミチン酸の作用についてはさらに解析を進める必要があると考えられる。また歯周病由来と大腸菌由来のLPSの炎症亢進効果とそれに対するパルミチン酸の作用の解析も進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究については、昨年末までの新型コロナ感染症の影響により授業等をリモートで行ったことなどの理由により細胞の維持管理が非常に困難を極めた。細胞を良好な状態に保つことが、実験を行うためには必須であるため実験の遂行が極めて難しい状態であった。また、PCR関連試薬の不足が顕著に十分な解析が行えなかった。そのような状況の中で申請者はタモキシフェンのアポトーシス誘導作用がミトコンドリア呼吸系酵素複合体IとIIの阻害に起因すること、パルミチン酸がタモキシフェンによる阻害を解除することを見出した。現在は試薬の払底などの事象がかなり改善されてきたことを踏まえて予定していたDNAマイクロアレイ解析ではなく、PCRを中心とした手段で確認実験を行う必要があると考え以下の実験を遂行している。①RAW246.7細胞を用いて、歯周病菌LPS+パルミチン酸あるいはそれぞれを単独で投与した際に産生されるマーカー炎症性遺伝子の発現についてのリアルタイムPCRでの確認。②LPSの細胞受容体TLR4とMCP-1の発現についてのリアルタイムPCR解析。歯周病菌が惹起する炎症をどのような機序でパルミチン酸が亢進するのか、その詳細な機序はまだわかっていない。本研究ではパルミチン酸と歯周病菌LPSの作用機序の関わりを解明し、食事の欧米化が進む中、歯周病罹患者が陥りがちな負のスパイラルからの脱却とQOLの向上をめざす。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究計画では交付申請書に記した項目の内、DNAマイクロアレイ実験についてはマイクロアレイ受託会社の事情もあり十分な量の委託が困難であった。そのためPCRを含めた他の手段で確認実験を行う必要があると考え。前項でも記したような実験を行う予定である。また大腸菌由来のLPSだけではなく歯周病菌由来のLPSについても入手することが可能となっている。歯周病菌が惹起する炎症をどのような機序でパルミチン酸が亢進するのか、その詳細な機序はいまだ不明な点が多々ある。そこでRAW246.7細胞を用いて、これら2種のLPSに対するパルミチン酸の作用を破骨細胞分化のマーカーの一つであるMPC-1を用いてリアルタイムPCRで確認する。さらにRAW246.7細胞で破骨細胞分化が生じる際に出現することが報告されているRANKL、RANKについてもリアルタイムPCRを用いてその発現量の変動を調べる。さらに炎症反応の亢進をもたらす可能性のあるLPSの細胞受容体TLR4についてもパルミチン酸投与時の量的変動についてもリアルタイムPCRで解析を行う。 上記で得られた指標遺伝子の変動をもとに、抑制作用及び作用点に関しての解析を行う。これにより、相乗作用に関わる経路を明らかにし、その抑制法を構築する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、新型コロナ感染症の影響で、継続した細胞培養が難しかった。また研究室の学生も、資格取得のための授業時間確保で研究に携われる時間が限られていた。PCR関連試薬及び血清の入手が難しいなどの理由から実験の進行が遅れたが現在はほぼ正常に服している。昨年度は歯周病菌由来LPSで行うPCR実験の予備的な情報収集を行ったため、使用額は少なくなったが、今年度は、培養のためのディッシュ、培養液、血清に加えPCR関連試薬を中心に購入する予定である。
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