研究課題/領域番号 |
21K02080
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
牛腸 ヒロミ 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80114916)
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研究分担者 |
牟田 緑 東京家政大学, 家政学部, 特任准教授 (50138187)
塚崎 舞 実践女子大学, 生活科学部, 助教 (50844924)
塩原 みゆき 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (80196360)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 茜 / 植物染料 / 濃色 / k/s値 / L*a*b*値 / 色差 / 染色堅ろう度 |
研究実績の概要 |
奈良・平安時代における宮中を中心とする衣服の色彩は、源氏物語を始めとする文学作品に反映されていると共に、「延喜式」を基に、単一植物染料による染め、二種の植物染料を用いる交染、単一の媒染剤を用いる単媒染、二種の媒染剤を染色の前後に用いる重ね媒染などで、それらの色彩が生み出された。しかし衣服に染めつけられた色は、時を経るに従い褪せて染色時の色とは異なってくる。従って、衣服の色相の多くは、色の名称などで想像する事のみが根拠であった。このような源氏物語等に記された衣服の色の展開は色彩美学や色彩心理学の対象となってきたが、議論に確実な根拠を与える科学的な測色はなされていない。特に交染や重ね媒染の場合には科学的な測定に基づく研究はほとんど行われていない。 本研究は、天然染料の単染、交染、染料の濃度変化、重ね媒染や光源の変化による反射光の波長分布を同定し、染色方法の定量化とそれらによる染色物の色彩の特徴を定量的に解析した基礎の上に、奈良・平安時代の天然染料による染色物の色彩と染色堅ろう度の再現を目的とする。 2021年度は色材として茜と紫根、丁子などを用い、染色布の色の濃さや色相に与える媒染剤や媒染方法の影響を明らかにした。 2022年度はインド茜と西洋茜と日本茜の3種の茜を用いて、染色温度、重ね媒染時のpH・時間の効果を検討し、染色布の色の濃さや色相や堅ろう度に及ぼす影響をk/s値、L*a*b*値、⊿E*値、各種堅ろう度の等級などにより定量的に評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず初めに、茜染色において、耐光堅ろう度が7~8級と非常に優れた重ね媒染法の報告の再現性の確認実験をしたが、再現できず、1年間試行錯誤したため、他の染材に着手できなかった。赤色の染色物が正倉院宝物中に現存していることから、奈良時代には耐光堅ろう度の高い赤色染色の技法があったと考えられるが、現在ではその技法は残されていない。従って我々は、この技術を見出すべく、現在も試行錯誤を続けている。 茜染色に関しては、インド茜、西洋茜、日本茜を用いて、綿や毛、絹の濃色で堅ろうな染色を試み、様々な媒染剤、染色方法において、染色温度、染色時間、重ね媒染時のpH,と浸漬時間などが染色布の色の濃さや色相や染色堅ろう度に及ぼす影響を、k/s値、L*a*b*値、等級、により評価することができ、幅広く、多くの知見が得られている。 紫根染色においても、明礬、酢酸アルミニウム、酢酸カルシウム、塩化鉄、硫酸バナジルなどの媒染剤、先媒染、後媒染、重ね媒染などの染色方法の影響をk/s値、L*a*b*値、等級により評価することができている。 また丁子染色においても媒染剤が色相に与える効果について明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、古来使われている天然の植物染料色材を用いて赤色、紫色、茶色の染色方法の検討を行ってきたので、今後は青色、黄色、赤紫色の染色方法の検討を行うために、藍、苅安、蘇芳などの色材を用いて、その染色性を調べる。 さらに、2021~2022年度に検討した植物染料の染色方法を延喜式に記載されている方法での再現を試み、二藍、葡萄染め、緑染め、その他の交染による染色布の色相、堅牢度他を測定し、各量比と色相、染色物の濃度、染色堅ろう度などとの関係を定量的に明らかにし、美的観点からの判定とは別立てで、色を再判定する。 これまでの研究結果をまとめ、学術誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた古来の染色法の再現において、茜染色、紫根染色の耐光堅ろう度の改善に時間を要したため論文作成も遅れている。また、地方で行われた学会がリモートで行われたため、出張費が大幅に削減された。これらのことから、他の染材の再現に用いる予定であった消耗品費や論文投稿費、出張費等を使用しなかったため、今年度は、それらの費用に充てる。さらに、遅れている染色法の再現を効率よく進めるために、コニカミノルタ製 分光測色計 CM-25dを購入する予定である。
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