金属アレルギー疾患の根治療法は未だ無く、その発症原因となるハプテン金属イオンを体内へ侵入させないことが効果的な対策となるため、それを捕捉するとともに、その捕捉を視覚情報として知らせてその発生と発生源を特定させる機能を繊維材料に付与する加工法を研究した。前年度には、有機溶媒中で塩化チオニルを用いてラッカイン酸を綿布帛に固定化する加工法の有効性を明らかにした。そして、将来の実用化のため、その作製プロセスにおいて人体や環境への負荷のより小さい方法が実現できないか、新たな加工処理法を研究した。 そこで、今年度は水溶媒系でラッカイン酸を綿布帛に固定化する手法を試みた。そして、次の知見を得た。 ①加工処理実験の結果、ラッカイン酸は、NaH2PO4の添加と高温の乾熱処理により綿布帛に固着可能であることがわかった。1.0 wt%ラッカイン酸+0.50 wt% NaH2PO4の染色液で処理した加工綿布は、1.0 × 10-3 mol L-1 NiCl2水溶液に浸漬させると、明橙色から明赤紫色に瞬時に変化し、その明度が69.2から60.3、色度のa*が27.3から23.9、b*が18.8から-1.90へと変化した。浸漬前後の色差は22.8と大きな値で、ニッケル金属に応答した変呈色が肉眼で識別可能であった。 ②Ni2+吸着量の評価実験の結果、1.0 × 10-3 mol L-1 NiCl2水溶液に浸漬させたラッカイン酸加工綿布の単位質量当たりのNi2+吸着量(vNi)は1.4 × 10-5 mol g-1であった。したがって、ラッカイン酸加工綿布は十分な量のNi2+を捕捉可能であるといえる。また、このvNi値は有機溶媒系で加工した綿布の5.0 × 10-6 mol g-1よりも大きいことがわかった。 さらに、処理条件によっては、NaH2PO4無添加系でもNi2+の捕捉・検知可能な加工綿布が得られた。
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