研究課題/領域番号 |
21K02103
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研究機関 | 京都光華女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
青木 正明 京都光華女子大学短期大学部, ライフデザイン学科, 准教授 (10866982)
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研究分担者 |
北口 紗織 京都工芸繊維大学, 情報工学・人間科学系, 准教授 (10573561)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 延喜式縫殿寮雑染用度 / 黄櫨染御袍 / ムラサキ / ニホンアカネ / ベニバナ / ハゼノキ / キハダ / 天然染料 |
研究実績の概要 |
本研究は、古代の環境で染められた色彩たちを可能な限り忠実に復元し情報開示することを目的としている。そのための手法として、「複数の古文献を調査し技術デザインするための情報を得る文学的工芸的アプローチ」と「染色技術を実験・評価する化学的アプローチ」の両輪で研究を進めることで、学際的な視点から実践的仕様が可能となる古代色彩の復元を目指す。 初年度として、前者の文学的・工芸的アプローチに比較的著名な古文献「延喜式 巻十四 縫殿寮」に記載の雑染用度に焦点を当て調査を進め、データベース化までを到達目標の最低ラインとした。また化学的アプローチについては、今後の染色実験が効果的かつ実践に結び付くことを目標として、使用実験機器の決定と実験染色工程の確立を到達目標の最低ラインとした。下の「現在までの進捗状況」にて解説の通り前者・後者とも最低ラインまでは到達した。前者に関しては延喜式以外の古文献調査で大きな成果はなかったが、数々の収蔵品熟覧ができたことにより、今後の調査についての知見を多く得ることができた。 また、本研究の最終年度に作業予定である「実際に衣類製作可能な布量(約38cm巾×5m長)の小巾絹地を染める」実践のためには、高品質な天然染料の安定供給およびストックが必要なため、対象となる重要な天然染料については生産現場に赴き調査を行い、染料ストックの仕入れを行った。残念ながらコロナ禍により現場調査は予定通りとはいかなかったが、ストックは必要量を仕入れることができた。 2年度は更に文献調査を進めるとともに、染色実験を様々な角度から行うことで平安期に作業可能であった最も効率的な染色工程調査をはじめる。また、天然染料の生産現場については初年度に行けなかったムラサキおよびハゼノキの現場を訪れ調査を進めるとともに、引き続き染料ストックを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下、研究計画書「本研究で何をどのようにするのか」に基づいて述べる。 ①古文献の文学的工芸的調査について: 初年度である本年は、まずこれまで参考にされてきた古文献に焦点を当て調査を進めた。中でも延喜式記載の37色の染色材料リストについて詳細に調査をすすめ、色ごと及び被染物ごとの使用材料について度量衡の単位別に整理しエクセルデータ化を行った。このことにより、往時の色相によって使用する染料がグラフなどを用いて菓子かすることができ、例えば他の染料植物に比して蘇芳の使用量が異常に少ない傾向にある点、火力の参考とされていた薪の使用量が概ね30の倍数であることなどがわかった。また、古文献調査のみならず黄櫨染御袍をはじめとした現存する収蔵品の熟覧を多数行うことができた。いくつかの収蔵品は分光測色計による測色データも得ることができ、色素同定のための基礎となる可能性を秘めたデータが入手できた。 ②化学的色彩工学的調査による染色技術の推定: 主に京都産業技術研究所色染チームラボを使用し、標準的な染色実験器具を使用して天然染料による染色実験を行うための実験方法確立作業を進めた。その際、被染物の布量を訊き有効最大とすること及び実験工程が実践的染色工程に可能な限り相似となる事をめざした。いくつかの実験作業ののち、天然染料焚き出しによる色素抽出に小型回転ポッド染色試験機「ミニカラー」を使用、染液分離にはフラム型真空ポンプによる強制吸引(定性ろ紙使用)、浸染及び媒染工程にはオイルバス染色試験機を使用することと決定でした。 ③天然染料の調査研究: コロナウィルス蔓延のため天然染料栽培地には予定どおり赴くことはできなかったが、ニホンアカネ栽培農家、貝紫染料調整者の生産現場を訪れ栽培調査を行った。また、ムラサキ、ニホンアカネ、ベニバナ、ハゼノキ、キハダ重要染料に関しては必要数量のストックを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進めるにあたり特に大きな変更はないため、ここでも研究計画書「本研究で何をどのようにするのか」に基づいて述べる。 ①古文献の文学的工芸的調査について: 初年度に行った延喜式縫殿寮雑染用度の材料データの数値データベース化は非常に有益だったと考えている。古文献に数値表示されているものは少ないが、奈良時代の荷札木簡など可能な限り数値で表現されているものを意識しつつ調査を進めてゆく。また、2年度からは、これまで染色の視点からは重要視されなかった文献にも調査を広げてゆきたいと考えている。 ②化学的色彩工学的調査による染色技術の推定: 初年度で決定した実験手法に則り様々な染色環境比較実験を進めてゆく。その中でまずは水質差による色相変化の調査を始める。実験の再現性を重視するならば蒸留水使用が通例だが、天然染料の染色に関しては若干の金属塩混入の水のほうが彩度の高い仕上がりとなる現象が染色現場でみられており、この点を調査する実験を行う。その他にも抽出液pH調整、染料抽出温度差、染色温度差など様々な環境差による染め上がりを測色計にて測色評価してゆく。 ③天然染料の調査研究: 引き続き重要な天然染料の生産現場を訪れ調査を進める。ムラサキについては新たな生産者とコネクションができた。この生産者は園芸学研究者の指導により高効率な栽培手法を研究している。また、ニホンアカネについても新たな生産者とのコネクションができつつある。これら生産者との連携を深め、染料生産から染色工程まで滞りなく情報とモノの流れが起こるようなサプライチェーンを目指すことで、古代染色技術の探索がより効果的になると考える。これまで以上に生産者との情報共有を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな原因は以下の2点である。 ①コロナ禍により天然染料の生産者への訪問が非常に少なかった: 本来はそれぞれの重要な生産者へ複数回訪問する予定であったが、当初の予定に比して概ね1割に満たない訪問実績となってしまっている。本年度はコロナの状況を鑑みつつ可能な限り訪問調査を行うことにより密な情報共有を目指す。 ②実験器具・染色器具購入が減少した: 当初は本学内研究室に実験器具・染色器具を購入し作業を進める予定だったが、京都産業技術研究所にて多くの染色実験作業を行うことができることが2021年10月頃に判明した。当初は京都産業技術研究所への見学と試験実験を行うのみだったため使用料ほぼ発生しなかった。今後はラボ使用料及び実験助手の人件費などに使用する費用が増加する。
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