研究課題/領域番号 |
21K02147
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
乾 滋 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10356496)
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研究分担者 |
堀場 洋輔 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (00345761)
召田 優子 長野工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (20757893)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 立体裁断 / 仮想空間 / 型紙設計 / ダーツ / 輪郭線 / ネックライン |
研究実績の概要 |
先行研究ではタイトスカートの型紙設計が可能なシステムを構築した。このシステムではダーツを取ることは可能であるが、方向は垂直方向に限定されていた。しかし、多様な服種が設計可能である汎用的なシステムとするためには、任意の方向にダーツが取れることが必要となる。 このため、任意の位置に任意の方向のダーツを取ることができるようにシステムを拡張する。検討の結果、以下のような手順とした;人台上の点を指定、指定された点を起点としたダーツの方向の決定、指定された方向に布を膨らみの形状を追加、追加された形状への布モデルのマップ、手モデルの布モデルの操作によるダーツ形状の調整、ダーツ形状の認識と決定。婦人服の上衣ではバストポイントを起点としてダーツを取ることが多いため、今回はバストポイントを基点とし、その点での法線ベクトルを含む平面を表示し、それを回転させる機能を設定することでダーツの方向を指定する機能を追加した。さらにベジエ曲線からなる曲面を布の膨らみの形状として作成し、これを布モデルの局面形状に重ね合わせるところまでを作成した。 また、タイトスカートの場合には、型紙の輪郭は前中心やウエストラインなど、立体と平面の交線で定義できる単純なものであった。しかし、上衣の場合には襟周りや袖周りは型紙の輪郭線は曲線となる。そのため、汎用的なシステムのためには、このような場合も含めた輪郭線の決定ができることが必要となる。 このため、ネックラインの作成をシステムに組み込む。検討の結果、以下のような手順とした;基準となるフロントとバックのネックポイントの位置の決定、これらの2点を水平面に射影、射影された2点を結ぶベジエ曲線を作成して中間点を算出、これらの点を、人台表面に写像された布モデルに逆に射影する。基準点は適当な位置に設定し、水平面上の曲線の作成までをシステムに組み込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の内容」の項で述べたように、先行研究では基本的な型紙設計が可能なシステムを構築している。しかし、そのシステムは非常に基本的なもので、作成可能な服種が非常に限られていた。システムとしては、より汎用的で様々な服種の型紙設計が可能となるものを目指している。そのための主要な拡張が、上で述べた“任意の位置で任意の方向にダーツをとることのできる機能”であり、“様々な輪郭の切り取りが可能である機能”である。これらの機能がシステムに組み込まれれば、服種全体のかなりの部分の型紙設計が可能となると考えられる。 本研究では、これら2つの機能それぞれを作成することを目指しており、その後これらを統合してシステムに組み込む。その後、システムにより型紙設計を試行することで不足する点を洗い出し、改善するサイクルを繰り返す。現在2つのそれぞれの機能の作成の半ばである。ダーツについては、人台上に膨らんだ形状を追加しているが、これは布のダーツを取る部分が表面から浮いて膨らんだような形状を指でつまむことでダーツ形状を形成する現実の手順を模したものである。ここで交差の判定をリアルタイムで行うことが必要となり、そのためのアルゴリズムの再検討が必要となるかもしれないが、それを見越しても次年度には全体の作成を完了することができると考えている。輪郭の設定も含めてこれらを次年度で作成を完了させる。さらに最終年度ではそれらを統合して改善する予定である。このことから、全体的にはおおむね順調に進展していると結論づけることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのシステムでは作成できなかった服種を、作成できるようにすることは重要である。そのため現状では、型紙設計を行うための機能の充実に主眼を置いて研究を推進している。上記のように、現在作成中の機能を作成して統合する。その後、システムを用いて上衣の型紙設計を行い、その型紙に基づいて実際に現実の衣服を作成する。それを人台に着装することによって、不具合部分などを確認し、改善することができると考えられる。 一方、ダーツの操作などにおいて、手モデルによる布モデルの操作によってダーツの位置や量を調整することは本システムの重要な要点の一つである。現状では操作は可能であるが、布モデルが非常に柔らかく感じられ、初めてシステムに触れる者が自在に操作することは非常に困難で、操作を行うためにはかなりの慣れを必要とする状況である。システムの操作性は非常に重要であるが、現状では機能の充実を優先している。機能の充実に余裕があれば、操作性の向上に取り組むことも非常に重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、生地物性など計測が必要となる生地特性がある。コロナ禍の影響により計測機器の使用ができない状態が継続するなどの状況が発生した。前プロジェクトの予算の支出を延期せざるを得ない状況のため、前プロジェクトの進捗について1年近くの遅れが発生した。研究室のマンパワーの問題から、前プロジェクトの計測を優先しなければならず、本プロジェクトに関わる計測の部分に遅れが生じた。そのためこの部分を後ろ倒しにせざるを得ない状況であった。この部分を今年度に実施する予定である。 また、本研究では仮想空間での作業が重要な要素の一つであり、そのためにヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなインターフェースの機器が重要な要素となっている。このような機器の発達はめざましく、適宜キャッチアップすることが必要であると考えており、この用途に充てることも考えられる。
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