研究課題/領域番号 |
21K02151
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
湯地 敏史 宮崎大学, 教育学部, 教授 (80418988)
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研究分担者 |
田代 真一 大阪大学, 接合科学研究所, 助教 (70432424)
木之下 広幸 宮崎大学, 工学部, 准教授 (80295196)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 繊維 / 染色 / 染料 / タンパク系繊維 |
研究実績の概要 |
近年、SDGsなどを踏まえた環境問題が世界全体で注目されている中、繊維業界においても合成染料などによる染色の際の廃液の処理が課題となっている。だが、天然染料は、染料の色そのものが薄く、染色効果を表す指標の堅牢度が合成染料よりも低いことが知られている。そのため、合成染料と同じ程度まで堅牢度を上げる天然染料での染色技術は、今のところ確立されていないのが現状である。そこで、廃液処理が容易な天然染料での繊維への新たな染色技術が産業界から求められている。 本研究では、大気圧プラズマ照射による天然染料を用いたタンパク系の繊維の染色効果の向上における研究を進めている。特に、植物である蘇芳の天然染料を用いたタンパク系の繊維である羊毛での高堅牢度の染色技術の確立を試みている。 これまでの研究実績としては、羊毛に蘇芳の天然染料を染色後に大気圧プラズマ照射にて、大気圧プラズマ照射後と未照射での堅牢度に違いが出ることまでは明らかとなった。だが、羊毛に蘇芳の天然染料を染色後に大気圧プラズマ照射後と合成染料のみで染色した羊毛とを比較すると堅牢度がかなり低いことが明確である。 そこで、この堅牢度を上がる方策として、蘇芳の天然染料に金属媒染液を加えることで、大気圧プラズマ照射の際に、大気圧プラズマ中から生じるプラズマガス由来のラジカル種と金属媒染液中の金属と間に化学反応が起こり、媒染液中の金属粒子が繊維と付着しやすい状況を作り出すことで、堅牢度が向上することが明らかとなった。そのため、媒染液中での塩基処理により分離しやすい銅粉体に着目し、銅粉体での金属媒染液と蘇芳の天然染料と混ぜ合わせて染色することにした。染色後、大気圧プラズマ照射により、大気圧プラズマ中から放出されるラジカル種と銅染液が化学反応を起こし、この化学反応の影響で、羊毛に蘇芳が強力に吸着することで堅牢度が向上した結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までは、大気圧プラズマ照射による繊維の染色後の染色効果の向上に関する基礎的な研究を進めてきた。その結果、大気圧プラズマ照射による繊維の染色効果の向上が確認できた。ここでは、合成繊維と合成染料を用いての結果であるため、本研究の最終ゴールである天然染料におけるタンパク系繊維の染色技術の向上には、染料と染色する繊維が大幅に違うため、十分な検証研究が必要であった。 そこで本年度は、タンパク系の繊維である羊毛において、天然染料である植物由来の蘇芳による大気圧プラズマ照射による染色後の染色効果の向上に関する研究を進めてきた。その結果、大気圧プラズマ照射だけでは、十分な染色効果の向上が得られなかったため、染料へ金属媒染液を混ぜ染色させ、金属媒染液中の金属と大気圧プラズマから生じるラジカル種との化学反応により、蘇芳染料と羊毛との間に吸着効果が向上したことを突き止めた。だが吸着効果の向上における成果が得られるまでには、多くの時間を要した。 そのため、他の金属媒染液での実験を試みることができていない点や大気圧プラズマから生じるラジカル種と金属との化学反応に関する関係性が十分に突き止められていない。少し、成果が得られるまでに時間を要したため、論文等の成果をまとめるまでの時間が十分に得られなかった。そのため、総合的に判断すると研究の進捗状況としては、十分な検証結果及び研究成果が得られていないとの判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度については、染色効果の向上を得るための研究成果が出るまでに、多くの時間を要したため、実験データ等をきちんとまとめて論文等を発表する時間が十分に得られていない。 来年度については、染色効果の向上を得るための1つの解決策である金属媒染液を染料に混ぜることを見出したため、この点を中心に研究を進めることで、目標となるタンパク系の繊維である羊毛において、天然染料である植物由来の蘇芳による大気圧プラズマ照射による染色後の染色効果の向上における研究結果が十分に得られるものと示唆している。ただ、染色向上の評価方法についてもあらゆる面からのアプローチも必要なため、評価方法についても文献や最新の研究成果を参考にしながら多くの研究成果を得たいと考えている。 現在、新たな大気圧プラズマ照射による染色後の染色効果の向上の研究結果を得るために、絹(シルク)についても研究をスタートし始めた。この絹についても多くの研究成果を得られる可能を秘めており、研究の展開次第では、本研究で生み出した大気圧プラズマ照射による染色技術を実際のタイ王国などで生産されている絹製品に応用することで、果物や植物由来の天然染料による染色で、海外の製品への利用価値も検討でき、本研究技術が産業応用としての可能性も出てきた。
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